令和6年度税制改正大綱の基本的な考え方
令和5年12月22日に「令和6年度税制改正大綱」が閣議決定し、政府与党から公表されました。
この税制改正大綱をもとに税制改正法案が作成され、令和6年1月以降の通常国会での審議を経て、4月に改正された法律が施行されていくことになります。
今年の税制改正大綱では「物価上昇を上回る賃金上昇の実現を最優先課題」と捉え、賃金上昇という人財投資を企業成長の原動力と考えていることが明記されています。
この人財投資という表現には賃金上昇のほかに、雇用の環境を改善するための働きやすい職場づくりへの支出が含まれています。
今回は「賃金上昇」及び「働きやすい職場づくり」に注力した企業へのインセンティブ(賃上げ促進税制)について見ていきます。
人財投資へのインセンティブ
1.賃上げへのインセンティブ
税制改正大綱では企業区分を「大企業」「中堅企業」「中小企業」と3段階に分け、それぞれの区分に応じたインセンティブを定めています。
このインセンティブは税額控除という形で享受することになります。
昨年度までは大企業と中小企業という2区分でしたが、税制改正大綱で新たに中堅企業という区分が設けられました。
中堅企業区分は大企業区分より要件が緩和されており、従前は適用できなかった企業が今回の改正により、適用できる可能性が生じてきますので、中堅企業区分に該当する企業にとっては朗報となります。
大企業(社員数2,000人超の巨大企業など)
前期から継続して働く社員の賃上げ率が3%以上ですと、賃上げ額の10%(賃上げ率に応じて最大25%)の税額控除が適用できます。
※賃上げ率が4%以上、5%以上、7%以上の区分に応じて、それぞれ15%、20%、25%と税額控除の適用率が異なります。
中堅企業(社員数2,000人以下の企業)
賃上げ率が3%以上で賃上げ額の10%の税額控除が適用できることは大企業と同じですが、賃上げ率が4%以上で25%の税額控除が適用できますので、大企業より緩和されています。
中小企業(資本金1億円以下の企業)
前期と当期の社員への給与総額が1.5%以上増加していると、その増加額の15%の税額控除(2.5%以上の増加で30%の税額控除)が適用できます。
また、日本全体では中小企業の6割が赤字法人となっているため、税額控除のインセンティブの有効性がないことに対して、税額控除を5年間繰り越せる制度が新たに創設されます。
欠損金を解消しているタイミングの企業にとっては、解消後に繰り越した分のインセンティブを得られる改正となっています。
2.働きやすい職場づくりへのインセンティブ
企業が社員の能力を高めるための教育訓練費用を投じたり、社員の子育てをサポートするための取り組みや女性活躍推進のための取り組みを積極的に行っている企業に、賃上げ税制の控除率を上乗せする制度となっています。
社員の子育てをサポートする取り組みについて、厚生労働省が定める基準をクリアした企業には、申請に基づき厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。
同様に女性活躍推進のための取り組みについても、申請に基づき同大臣の認定(えるぼし認定)を得られます。
これらの認定を受けた企業への取り組みに対するインセンティブとして、控除率の上乗せが認められています。
教育訓練費
教育訓練費が前年比10%の増加率の企業には、賃上げ額の5%を上乗せ控除することができます。
また、中小企業に関しては、前年比5%の増加で給与増加額の10%を上乗せ控除することができます。
子育てサポートや女性活躍推進への取り組み
厚生労働大臣から認定を受けた企業には、さらに5%の上乗せ控除が可能になります。
戦略的な人財投資が重要
人財採用が困難になってきていることや、離職率に頭を悩ませているというご相談を受けることが増えています。
社員の方々からすると、物価が上昇し、生活が厳しくなってきたと感じる方もおられるでしょうし、将来を不安視される方も出てくるかもしれません。
そんな時だからこそ、自分の職場が賃金上昇や働きやすい職場づくりに注力していると感じていただくことが、自社への帰属意識を高めることにつながると考えます。
賃上げに対し、優遇税制の適用を受けることにより、税額控除分の支出負担を助成してくれるのと同様の効果を生むことになります。
人財投資を企業成長の動力源に変えていくための報酬制度の再構築を検討するなど、計画的に今回の改正を活用してはいかがでしょうか。
なお、実際の適用に際しては、細かな論点が存在しますので、税務顧問の担当税理士とすり合わせしてください。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村松 宏昭
- 公認会計士・税理士事務所勤務を経て、アタックスに参画。
中小企業から上場会社まで幅広い顧客を担当。お客様中心主義の税務サービスを信条とし、難解な税務をわかりやすく平易な言葉で指導することで高い評価を得ている。経営者に対する財務面からの熱血指導でも定評がある。 - ※顧問税理士 変更をご検討の方はこちらをご覧ください。