【IT活用法】クラウドシステム活用で売上情報をリアルタイムに把握!計画的な資金繰り実現させた中華料理店I社の事例

経営

グローバル化やIT化によって急速に世界の距離が短くなり、今まで日本を支えてきた産業や企業も、一歩間違えればまたたく間に衰退を余儀なくされる時代となりました。しかし一方で、ITを利用することによって新たな活路を見い出した企業もあります。このシリーズでは、ITの活用に成功した業績好調な企業をご紹介いたします。


I社は神戸において複数店舗をかまえる老舗の中華料理店である。ボリュームある中華料理をリーズナブルな価格で提供するのが売り物だ。1995年1月に発生した阪神淡路大震災ではI社も大きな被害を受けたが、震災直後から社員一丸となって業務復旧に取組み、翌月には営業を再開した。今では復興を果たした神戸の街だが、被災直後に届けられた温かい食事を思い出し、I社のことを慕う地元の人々は少なくない。

そんなI社は、新たな試みとして、本格的な中華料理を味わえる高級店をオープンした。神戸市内の中心街にひっそりとたたずむ隠れ家的な店舗は、落ち着いた雰囲気で本場の料理を味わうことができ、これまでの客層とは異なる新しい顧客を獲得しつつある。

しかし、高級店のオープンに伴い、I社ではこれまで以上に計画的な資金繰りが求められるようになった。店舗のオープンに伴い、新たに借入を行ったことに加え、新業態の売上高を正確に予測できなかったからである。予測を誤り、材料を余らせてしまうこともしばしばあった。

また、高級店であるためクレジットカードを利用する顧客も多い。売上は上がっても、すぐには現金が入らないという問題も生じるようになった。

そのため、売上情報をリアルタイムで把握し、資金ショートを起こさないよう、資金繰りを見える化することが強く求められるようになった。

そこで、I社はクラウド上で売上情報を管理できるレジシステムの導入を決断する。当該レジシステムは、カード売上や現金売上を分けて管理することができ、また商品分類や顧客属性などの情報も持たせることができる。その一方で、店舗でのオペレーションは大幅に変える必要はない。これまで通り、レジを打つだけで、レジ情報がクラウドシステムに集計され、資金繰りなどに役立つわかりやすい情報をレポート形式で入手できる。

さらに、会計ソフトもクラウドに対応したものを採用し、預金残高と売上情報とをリアルタイムで把握することで、資金繰りの改善を試みようとした。

結果はすぐに出始めた。従来は月次のレジ締めが完了し、会計事務所に資料を渡して1カ月くらい待たないとわからなかった売上や売掛金といった情報が、ほぼリアルタイムで確認できるようになった。

また、資金繰りも計画的にできるようになった。従来は突然の資金不足に慌てることもあったが、今では売上推移を毎日確認し、資金が足りなくなることを予想して、あらかじめつなぎ融資を活用するなど、安定した資金繰りを行えるようになった。「資金繰りに対する漠然とした不安が解消されました」、I社の経営幹部はこのように話す。

意思決定にスピードと精度が求められる変化の激しい時代である。こうした時代においては、どれだけ早いタイミングで意思決定の裏付けとなる正確な情報を収集できるかが重要である。この点、近年ではクラウドを活用することで、こうした情報を低コストで収集することが可能である。今回の取組みでも、I社はオペレーションをほとんど変えていない。おそらく、飲食店を経営する会社でI社と同じことをするのはそれほど難しくないはずだ。しかし、こうした身近なIT活用の取組みであっても、やるかやらないかによって経営に大きな違いが生じてくる。このように、身近なところからIT活用を始めることの重要性をI社の事例は教えてくれているのではないだろうか。

ITを活用した業務改善について関心のある方はこちらからご相談ください。

筆者紹介

アタックス税理士法人 税理士 丹羽亮介

アタックス税理士法人  税理士 丹羽 亮介
東北大学経済学部卒。2004年、公認会計士試験合格後、監査法人トーマツに入社。新興企業へのIPO支援を主に扱うトータルサービス2部に所属し、監査業務をはじめ、上場支援業務等(予備調査、決算早期化、連結パッケージ導入支援等)に従事。
その後、2008年、トヨタ自動車株式会社に転職。経理部に所属し、株式グループの主担当として、トヨタが保有する1兆円を超える政策投資株式の管理や、500社を超える連結子会社・関連会社の判定ルールの見直し、株主総会の事務局などトヨタの投資政策、資本政策全般に係る幅広い業務を担当。
2012年、自分の学んできたことを活かして、中堅・中小企業の成長に貢献できる仕事がしたい、顔の見えるお客様に心から喜んでいただけるサービスを提供していきたいとの思いから、アタックス税理士法人に入社。

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