【IT活用法】クラウド型勤怠管理により、時間管理の意識を変え、残業時間を減少させた資材メーカーT社の事例

経営

安倍政権の肝煎り政策として、「働き方改革」が注目を集めている。残業時間の上限設定を含む労働基準法の改正が議論されており、長時間労働是正に向けた新たな規制が企業に課される見通しだ。

社会的にもワークライフバランスを重視する労働者が増えており、企業側には各職場の残業時間を速やかに把握し、時間あたり生産性向上に向けた対策を取ることが求められている。

もっとも、多くの中小企業ではこうした動きに対して十分な対応が取れていない。未だに紙のタイムカードや勤怠表を用いて労務管理をしている会社が多く、人件費や残業時間の把握は月次の集計が終わるまでわからないという話もよく耳にする。

愛知県に本社を置くT社も、以前は紙のタイムカードを用いた勤怠管理を実施していた。同社は、創業から50年以上の歴史を有する従業員100名程度の資材メーカーで、主に船舶や鉄道車両などの大型輸送機器を製造するメーカーに自社で開発・製造した独自資材を提供している。

T社の強みは、単に資材を提供するだけでなく、その資材を用いた加工・メンテナンス業務についても請負う点にある。自社製品を熟知した技術者が顧客の現場で加工やメンテナンスもサポートすることにより、品質の高いサービスを提供している。

しかし、そのようなT社では、事業の性質上、顧客の工場に常駐する社員も多い。中にはメンテナンスの仕事で顧客の工場を転々と移動する社員もおり、各エリアの管理者ですら、部下の勤務時間をリアルタイムで把握できていないという課題を抱えていた。

従来は、勤怠締日にエリアごとで従業員からタイムカードを集めて、それを本社に送付し、勤怠システムに入力するという運用をしていた、そのため、勤怠締日が終わってみないと各作業者の残業時間を把握できないという事態が生じていた。情報把握が遅れる結果、特定の社員に過大な負荷がかかっている事実や、特定の現場の残業時間が異常に増加している事実が後になって判明することもしばしばあった。

「長時間労働抑制に向けた社会的要請が強まる中で、現状のままの勤怠管理ではいけない」。そのように考えたT社は、勤怠時間や残業時間をリアルタイムで把握できるシステムを導入することを決めた。

同社が採用したのはクラウド型の勤怠管理システムだ。クラウド型の勤怠管理システムの場合、データがクラウド上に保存されるので、どこにいようと従業員の勤怠情報がリアルタイムに把握できる。月額課金制であるため、長期的な利用を考えると、コストが割高になるが、それを上回るメリットがあると判断した。

一方で、初期費用については、携帯電話を打刻機の代わりに用いたり、交通カードや電子マネーカードをICカード代わりに用いたりすることで、ほとんどコストをかけずに移行を完了することができた。

最初は、打刻間違いや未打刻などの問題も生じたが、管理者に日次で勤怠情報をチェックするよう徹底し、運用も安定していった。そして、本社や管理者がリアルタイムで残業時間を把握できるようになったことで、これまで本人からの報告を待たなければわからなかった異常勤務も早期に把握できるようになった。勤怠時間が可視化されたことにより、時間管理に対する社員の意識が高まり、残業時間も以前に比べて減少傾向にあるという。

働き方改革については、人材豊富で資金力もある大手企業だけの話だけと思いがちだ。しかし、在宅勤務を認めたり、時短制度を導入したり、それまで認めていなかった新しい制度を始めることが働き方改革ではないと考える。

残業時間の削減、有給休暇の取得率上昇を目的とした場合、本来着目すべきは「時間あたり生産性」であり、従業員の「時間意識」を高めることが重要である。そのためには現場の異常事態を適時に把握し、管理者と労働者とが速やかに話し合いながら対策をとれる環境整備が不可欠である。まずはT社のようにリアルタイムに勤怠時間を把握するところから対策を始めてみるというのも一つのやり方ではないだろうか。

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筆者紹介

アタックス税理士法人 税理士 丹羽亮介

アタックス税理士法人  税理士 丹羽 亮介
東北大学経済学部卒。2004年、公認会計士試験合格後、監査法人トーマツに入社。新興企業へのIPO支援を主に扱うトータルサービス2部に所属し、監査業務をはじめ、上場支援業務等(予備調査、決算早期化、連結パッケージ導入支援等)に従事。
その後、2008年、トヨタ自動車株式会社に転職。経理部に所属し、株式グループの主担当として、トヨタが保有する1兆円を超える政策投資株式の管理や、500社を超える連結子会社・関連会社の判定ルールの見直し、株主総会の事務局などトヨタの投資政策、資本政策全般に係る幅広い業務を担当。
2012年、自分の学んできたことを活かして、中堅・中小企業の成長に貢献できる仕事がしたい、顔の見えるお客様に心から喜んでいただけるサービスを提供していきたいとの思いから、アタックス税理士法人に入社。

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