【IT活用法】販売管理システムによるデータ活用!廃棄ロスを減少させた宅配弁当会社N社の事例

利益計画 経営

グローバル化やIT化によって急速に世界の距離が短くなり、今まで日本を支えてきた産業や企業も、一歩間違えればまたたく間に衰退を余儀なくされる時代となりました。しかし一方で、ITを利用することによって新たな活路を見い出した企業もあります。このシリーズでは、ITの活用に成功した業績好調な企業をご紹介いたします。


「3号車は間に合いそうにないから、6号車が商品を配送して」、「注文が入ったから、2号車は店長から商品受取ってお客様に届けて」。宅配弁当事業を営むN社では、お昼が近くになるにつれ、にわかに慌ただしさが増してくる。次々と店舗に入る注文をさばきつつ、既に宅配に出ている配送車に、どの顧客に何個の弁当を届けるのか無線で指示を飛ばす。

同社は創業60年になる弁当会社。地域密着をコンセプトに、地元の工場や事業所などの施設を中心に宅配弁当を提供してきた。地元の食材や旬の素材を活かした同社の弁当には、昔からの根強いファンも少なくない。

しかし、そのような老舗企業のN社でも、最近では、コンビニや外食企業の出店、工場や事業所等の減少などにより、年々経営環境は厳しさを増している。宅配弁当事業の難しさは、当日どれだけ売れるのかわからない点にある。注文の大半は当日になってから、ファックスや電話で入ることが多い。ランチタイム直前になって注文が入ることもある。特に、当初予定していた量以上の注文があると、配送車両間の商品の受け渡しを手伝うために店長が緊急出動することもある。そのため、店長は急な注文にも対応できるよう、配送量に余裕を持たせておきたいと考える傾向にある。

しかし、「これは非常に大きなリスクだ」とN社の社長は指摘する。「店長たちの気持ちはわかるが、それに従って弁当を作っていたら大量の廃棄ロスがでてしまう。薄利多売の弁当事業において廃棄ロスは命取り。頑張ってもその日は1円も儲からなかったということになりかねない」と続ける。

そこでN社はITを活用して、受注の予測精度を高める取組みを始めた。まず、それまでの販売システムを刷新し、顧客別、商品別、配送ルート別に細かく実績を入力・分析できるシステムを導入した。また、従来は現場の経験と勘であいまいに決めていた配送量も顧客別、商品別にあらかじめ計画することとし、製造部への発注依頼に際して各店舗で当該配送計画をシステムに入力することとした。

廃棄ロスは実際の販売量と配送量との差により算出される。そのため、新しい販売管理システムでは、どのお客様で廃棄ロスが生じているのか、どの商品で廃棄ロスが生じやすいのかなどの情報が全て可視化されることとなった。また、副次的な効果として、販売予測の季節的な変動や不採算顧客や配送ルートについても数値で実態が把握できるようになった。

最初は不慣れなシステムの操作や入力量の増加に反発していた店長たちであったが、毎月の経営会議で廃棄ロスなどの資料が提出され、その実態が明らかになるにつれ徐々に意識が変わっていった。「どのお客様のどの商品に問題があるのか、今まで漠然と感じていた問題の所在が数字で掴めるようになりました。採算の取れていないお客様に値上げを交渉したり、配送ルートを見直すことも以前よりやり易くなりました」。今では、現場の店長もこのように話す。

強い会社の特徴の一つとして、自社の現状を正しく認識している点があげられる。経営の舵取りをしていくうえで、思い込みや先入観による意思決定は危険であり、数字やデータに基づき、どこに問題があるのか、なぜ問題があるのか明確にすることが重要である。その点、ITを活用することで、自社の現状を正しく捉え、販売予測に活かそうとするN社の取組みからは、経営を強化するためのヒントが読み取れるのではないだろうか。

ITを活用した業務改善について関心のある方はこちらからご相談ください。

筆者紹介

アタックス税理士法人 税理士 丹羽亮介

アタックス税理士法人  税理士 丹羽 亮介
東北大学経済学部卒。2004年、公認会計士試験合格後、監査法人トーマツに入社。新興企業へのIPO支援を主に扱うトータルサービス2部に所属し、監査業務をはじめ、上場支援業務等(予備調査、決算早期化、連結パッケージ導入支援等)に従事。
その後、2008年、トヨタ自動車株式会社に転職。経理部に所属し、株式グループの主担当として、トヨタが保有する1兆円を超える政策投資株式の管理や、500社を超える連結子会社・関連会社の判定ルールの見直し、株主総会の事務局などトヨタの投資政策、資本政策全般に係る幅広い業務を担当。
2012年、自分の学んできたことを活かして、中堅・中小企業の成長に貢献できる仕事がしたい、顔の見えるお客様に心から喜んでいただけるサービスを提供していきたいとの思いから、アタックス税理士法人に入社。

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