今こそ、ビジネスイノベーション

経営

今回は、世界第1号の「シャツ専門店」を、場末のコンビニ店2階で起こしたM社のS会長についてご紹介します。勤務した会社4社が次々と倒産するのを目の当たりにした後、今から19年前、遅咲きの53歳で創業しました。

最上質の80番手双糸以上の生地を使用し、縫製は国内の熟練職人による巻き伏せ本縫い、ボタンはすべて天然高瀬貝を巻き上げたものを使用したビジネスシャツの製造小売を展開しています。

創業以来、驚くほどの低価格を設定し、一切変えていません。今現在、全国23店舗、年間60万着を販売するまでに成長しました。リピーター率70%以上と、ファンの心をしっかり鷲掴みしてしまったようです。

では、なぜS会長はこのような成功を掌中に収めることができたのでしょうか。

まず彼には、日本のビジネスマンが世界で活躍するためのメンズファッションをメイド・イン・ジャパンで創りたいという熱い思いがありました。そして、「元々欧米生まれの洋服業界で日本発の世界ブランドを創れるのは、この世界で育った自分くらいではないか、という固い自負心があったのです。

片一方で、取り扱い品目をシャツに絞りました。対象とする購買層をファンにして取り込めば、シャツなら消耗品として定期的に買い換えてくれるし、自社としても投資額が少なくて済みます。事業的に「安全性が高い」という冷徹な計算がありました。熱い思いを「経営理念・ビジョン」とし、冷徹な計算を「財務アタマ」と呼ぶとすれば、S会長にはこの二つが揃っていたのです。

成功の裏には、もうひとつ重要な要素がありました。少ない資本でスタートする以上、店舗に大きな投資ができませんでした。実はこれが幸いしたのです。店舗が場末のコンビニの2階でも、広告宣伝費にかけるお金がなくても、ここまでお客さまに来店していただかなければなりません。そのためにはどうすればいいか、また、この店のファンになり、リピーターになって来店頻度を高めていただくにはどうすればいいか、S社長は徹底的に考えました。

考え抜いた結果、スーツ1着に1000ドルくらい自己投資する、シャツにこだわりのあるビジネスマンにターゲットを絞りました。ビジネスシャツ・ユーザーのわずか10%に満たないにもかかわらず、この人たちを対象とすることにしたのです。そして、「この対象顧客を感動させる圧倒的な商品力があれば、わざわざ来店していただくことは可能だ」ということに気づきました。

しかも、誰もこんな儲からないビジネスに参入しようと考えない価格設定がポイントだと考えました。そして、毎週、新作製品を投入して生鮮食料品のように次々と新しい上質のシャツを売り続ければ、きっと来店頻度が高まるだろうと考えたのです。

さらに考えたのは、売り場に対するコンセプトでした。売り場はお客さまが求めるサービスを売る場所、お客さまとの緊張感を維持する場所、一生懸命に接客してお客さまから「有難う」と言われる場所でなくてはならないということでした。従って、売り場は「シャツを売らないところ」と位置づけ、「お客さまの心を満足させ、購買していただき、喜ばせ、信頼を獲得する場所」と認識したのです。

かくして、当社の快進撃は、今も続いています。

筆者紹介

アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 西浦 道明
1972年 一橋大学卒。81年 株式会社アタックスを丸山弘昭と共同創業後、90年 今井会計合同事務所(1946年創業)と経営統合し、アタックスグループを結成。「社長の最良の相談相手」をモットーに、中堅中小企業の事業承継、株式公開、企業再生、事業再編、組織改革、M&Aなど、幅広い業務に従事。
現在、アタックスグループのトップとして、 公認会計士、税理士、 中小企業診断士、社会保険労務士、その他スタッフ総勢約160名を率いる。
西浦道明の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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