また、企業の不祥事が起きてしまいました。
東芝やVWなどの例を出すまでもなく、何度経営者が頭を下げ、何度再発防止を誓ったのでしょう。
しかも、今回の三菱自動車は以前に会社の存続まで脅かすほどの「リコール隠し」という不祥事を起こした会社が、今度は燃費を改ざんするという大不祥事をおこしてしまったのです。
記者会見に臨んだ社長は、コンプライアンス第一を全社に行き渡らすことができなかったと唇をかみしめ悔しさをにじませていました。
では、全社に行き渡らせるために経営陣は何をしたのでしょう?
コンプライアンスを徹底するために何をどのように行動をおこしたのでしょうか?
また三菱自動車の経営陣は、開発・技術・製造・営業などの現場に何を求めたのでしょうか?
例えば、期限までに目標とした燃費が実現できないといたら・・
開発や技術の部門は、「目標燃費がクリアできないので期限を延ばしてください」または「その目標はクリアできないので燃費を下げてください」と言える環境だったのでしょうか?
限られた予算(三菱自動車の開発費は800億円程度)で、ダイハツやスズキ、そしてホンダといった軽メーカーと、互角に戦うことを経営陣は求め続けたのです。
結局、売るための目標至上主義だったとすれば、それは全社に行き渡る努力をしていたのではなく、悪く言えば改ざんする組織風土を許容していたことになります。
また、開発陣も、無理なら誤魔化すといった、邪悪な気持ちが蔓延した組織風土だったのでしょう。
不正が常態化していたことや、日産から指摘を受けてから、社長が報告を受けたのが5日も経過していた事実が、それを物語っています。
つまり、経営の基軸そのものが間違っていたと考えられます。
ここで、三菱自動車の経営理念を見てみましょう。
三菱グループには、「三綱領」という、140年引き継がれてきた経営の根本理念があります。
1.所期奉公=期するところは社会への貢献
2.処事光明=フェアープレイに徹する
3.立業貿易=グローバルな視野に立って
というものです。
そして、「三綱領」の精神を受け継ぐとともに、三菱自動車として定めた企業理念が
「大切なお客様と社会のために、走る歓びと確かな安心を、こだわりをもって、提供し続けます」というもので、2005年に制定されました。
この理念には、項目に分けてそれぞれ注釈が書かれています。
例えば、大切なお客様と社会のためには、お客様第一主義に徹します。
そのことを通じて社会から信頼される企業を目指すとしています。
全社に行き渡らなかったと唇をかみしめていた社長は、この企業理念を常に経営の基軸とし、自分自身が実践されていたのでしょうか?
また、各現場を管理監督する立場の役員等経営幹部は、この企業理念を理解していたのでしょうか?
加えて、今回、改めて三菱自動車の企業理念を見て感じたことは、社員に対して会社がどう向き合うのかが表現されていないことも気になりました。
私は、このような不祥事が起こるたびに、経営の基軸となる経営理念について考えます。
どうしても業績が最優先になることは、十分理解できますし、利益がなければ会社は存続できないという経営者のお気持ちもわかるつもりです。
しかし、会社を存続させる「利益」を長期に渡って生み出す原動力は社員です。
経営の基軸は利益ではなく人でなくてはなりません。
今回の不祥事を他山の石とし、今一度経営の原理原則を強く心に刻みたいと思います。
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筆者紹介
- 株式会社アタックス戦略会計社 代表取締役会長 片岡 正輝
- 1952年生まれ。アタックス税理士法人の前身である公認会計士今井冨夫事務所に入社。現在は、アタックスグループの統括マネージャーとして、広範囲な知識と豊かな経験という両輪を武器に、経営・財務・会計業務を中心に計画経営の推進、経営再構築、事業承継等のコンサルティング業務に従事、経営者の参謀役として絶大なる信頼を得ている。
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