【IT活用法】斬新!福利厚生ITプラットフォームで社員定着率改善に取り組む、業務用システム受託開発を行うY社の事例

経営

様々な業種で人手不足が叫ばれている。直近の有効求人倍率はバブル期以来の高水準で推移しており、一部飲食店では採用難から営業時間の短縮や閉店を余儀なくされるケースも出始めている。

採用市場において求められる条件・待遇が上昇する一方で、コストをかけてもなかなか人が集まらない状況が続く。このような環境の下、社員の採用よりも優秀な社員の離職防止に力を割く会社も増えはじめている。業務用システムの受託開発を行うY社もそうした会社の一つである。

同社は創業間もない ITベンチャー企業であるが、大手メーカーの基幹システムの開発やITプロダクト構築にも関与しており、業績は好調だ。同社の強みはインフラ構築からソフトウエア開発まで、顧客の要望に沿ったシステム開発をワンストップで請け負う点にあり、難易度の高い課題でも、それを具現化する技術力に定評がある。

そうしたY社の技術力を支えているのが、60人程度からなる開発部隊。しかし、数年前からこの開発部隊に異変が生じ始めた。優秀なエンジニアの退社が目立ち始めたのだ。最初は「中途採用を強化して、穴埋めすればよい」と考えていたが、その後も退職は続き、社長も徐々に危機感を強めていった。

「現場で何が起きているのだ」、社長の号令のもと、現場のリーダーが集められ、原因や対策を話し合う合宿が開催された。リーダーたちは泊まり込みで喧々諤々の議論をした。そうして導き出された結論は社長にとって思いもよらないものだった。

リーダーたちは、エンジニアの退職原因が「会社と社員との信頼関係の欠如」にあると進言したのだ。確かにY社では、会社の大きな目標をみんなで共有したり、職場や仕事を離れて交流を持つことや、他のチームの社員とのコミュニケーション取るような機会はほとんど作られてこなかった。その結果、社員と会社との結びつきが単に報酬や評価だけのものになり、働きがいを感じにくくなっているのではと指摘をしたのだ。

すぐに幹部会が開催され、社員同士の絆を強めるべく社内コミュニケーションを強化すべきとの方針が決定された。しかし、いざコミュニケーションを強化するといっても、急に話しかけたりしたのではぎこちなさが残る。自然な形で社内コミュニケーションを増やすためには、どのような手法を取ればいいのか課題が残った。

そうしたなか、担当役員が名古屋に本社を置くベンチャー企業が提供する福利厚生ITプラットフォームの存在を知る。このサービスは、自社オリジナルの福利厚生サービスを作成し、それを社内SNSの形式で利用できるプラットフォームサービスだ。担当役員は、これを活用すれば、自然に社員同士のコミュニケーション機会を作り出せるのではと考えた。

例えば、「入社後30日以内に新入社員と一緒に食事に行けば 1000 円の補助を出す」であるとか、「複数の部署のメンバーが5人以上で出かける場合には2000円の補助を出す」といった社内のオフコミュニケーションを増やす福利厚生メニューを増やし、社員がそのサービスを活用すると上司や部下だけでなく、他の部署の社員にも自動的に情報が発信される仕組みを取り入れた。

「効果はじわじわとでてきています」。担当役員はこう話す。これまでは部署を超えた交流やコミュニケーションをとる機会はほとんどなかったが、今では、誰かが福利厚生メニューを活用するとその活用情報が自動的に他の社員に通知される。そうした通知を見て、上司や他部署のメンバーがメッセージを送るなどのリアクションを取ることもあり、普段なかなかコミュニケーションをとらない他部署の社員同士が気軽に接点やつながりを持つことができるようになったと言う。

プラットフォーム上には、どのような福利厚生メニューの利用率が高いのか、どういった部署や役職で利用率が高いのかといった情報が蓄積される。その履歴から今後どのような福利厚生メニューを追加すれば、社内コミュニケーションをより活性化できるのか曖昧だった情報が把握できるようになった。

Y社の取組みは、まだ始まったばかりで、本当に今後社員定着率が改善していくか未知数である。しかし、採用環境が年々厳しくなる中で、優秀な人材の定着はまさに会社の死活問題である。そうした中で、定着率改善のポイントを会社と社員との信頼関係の構築と捉え、福利厚生と社内SNSを組み合わせることで社内コミュニケーションを活性化させようとしたY社の取組みは斬新である。

採用コストが年々上昇するなかで、社員の定着率を改善できるのであれば、まずは足元を固める意味合いも込めて、その採用コストの一部をこうしたIT投資にあてることも検討に値するのではないだろうか。

ITを活用した業務改善について関心のある方はこちらからご相談ください。

筆者紹介

アタックス税理士法人 公認会計士・税理士 酒井悟史

アタックス税理士法人  公認会計士・税理士 酒井 悟史
慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツ・トータルサービス事業部を経て、 2014年アタックス税理士法人に参画。トーマツでは、監査業務の他、株式公開支援業務、業務プロセス効率化支援、 連結財務諸表作成支援等に従事。現在は、主に上場中堅企業の法人税務業務の他、相続対策や資本政策等に従事している。

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