今回は、浜松に本社のある、日本には珍しく戦略的なL社を紹介したいと思います。L社の戦略性については以下に箇条書きにて列挙します。
1.創業にあたり、「企業目的」、「企業の存在意義・使命」を、最も時間を割いて考えた。
2.コア・コンピタンスを、「人工知能を基盤とした最先端ソフトウェアテクノロジー」とした。
3.「業界シェア1位か2位を取れないものは、やる価値がない」と考えた。
4.「経営基盤も実績もない会社が短時間に評価を得るには、日本市場ではなく世界市場で認められなければならない」と考え、開発する製品群を「すべて欧米市場向け」に集中した。
5.創業から7年目に、いよいよ日本市場に参入するにあたり、「日本の市場規模・動向・他社製品の性能・価格などを多面的に分析」した結果、1994年当時、「これからの情報発信源は、光学的に文字を表現する手法が必ずや大きな市場になるであろう」と推測した。
6.アイデア、コア技術、事業化スキルは内製化し、それ以外は外部資源に頼った。
結論的に言えば、L社の国内携帯3G市場におけるシェアは70%と、この業界トップのポジションを獲得しています。当然、収益性も非常に高くなっています。経営トップが描いた戦略は、まさに実現したのです。自社独自の組込DBを内蔵することで、従来の10分の1にデータ容量を抑えたことが大きかったようです。
L社の強みは、国内フォントベンダーにおいてただ一社、組込実装をフルサポートできる開発体制を整えていることです。当社に頼った方が低コストにつながるとなれば、当社製品を組み込んだ方が賢いということになります。わずか15名の会社にして、堂々とビッグビジネスと渡り合っているのです。
では、なぜL社は成功できたのでしょうか。一言で言えば、経営トップが強い意志を内に秘めながら、組織のエネルギーを一点に集中させたからです。
まずは、企業目的・存在意義によって社員の気持ちを高揚させました。コア・コンピタンスを明確に決め、競争力の源泉として何を蓄積するかを決めました。次に、市場で1位か2位になるものを選択し、そこに経営資源を集中させました。
日本市場の評価を得るため、まずは、あえて遠回りして世界に出て戦ったのです。その数年後になって、いよいよ日本市場に経営資源を投入するに当たり、事前のリサーチを徹底させました。その結果、「光学的に文字を表現する情報発信手法」に事業領域を絞り込んだのです。さらに、何を内製化し何を外部資源に依存するかを明確に定め、開発効率を高めました。
L社のケースは、現場重視の多くの日本企業の経営者がとかく軽視しがちな「実践経営理論」の重要性を改めて認識させるに十分ではないでしょうか。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 西浦 道明
- 1972年 一橋大学卒。81年 株式会社アタックスを丸山弘昭と共同創業後、90年 今井会計合同事務所(1946年創業)と経営統合し、アタックスグループを結成。「社長の最良の相談相手」をモットーに、中堅中小企業の事業承継、株式公開、企業再生、事業再編、組織改革、M&Aなど、幅広い業務に従事。
現在、アタックスグループのトップとして、 公認会計士、税理士、 中小企業診断士、社会保険労務士、その他スタッフ総勢約160名を率いる。 - 西浦道明の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。