「銀行の常識は世間の非常識」
「晴れると傘を貸し、雨が降ると取り上げる」
等と揶揄されることもある銀行ですが、何故そのような行動になるのでしょうか?
銀行のビジネスモデル、という観点から見てみたいと思います。
最近、三菱東京UFJ銀行の利鞘がマイナスになったことがニュースになりました。
厳密には、営業経費等を除いた平均資金調達利回りと平均貸出利回りとを比較すると、調達は0.08%、貸出は1.1%ですから、貸出すことで約1%は稼ぐことができます。
これを高いと見るか低いと見るかは人それぞれでしょうが、これは(粗利ベースでも)回収期間100年のビジネスに資金を投じているようなもので、一般事業会社では考え難いモデルです。
先日、シティバンクの日本事業縮小が発表されました。
これは同社の経営上の問題もあるのでしょうが、結局は日本での銀行ビジネスにメリットを見出せなかった、との面も否めないと思います。
一例として、比較的収益性が高いとされる住宅ローンを見ると、米国では利鞘を3%程度確保できる一方で、日本では貸出金利自体が1%を切るような水準であり、収益環境が随分異なることが分かります。
これまで邦銀は、負の側面もありつつも、低コストの金融仲介と言う点では相応の役割を果たした面もある、と個人的には考えています。
一方で、事業会社や海外の銀行と比べ、収益性の観点からは大きな問題を抱えているのです。
さて、こうした収益構造を念頭に置くと、以下のような銀行行動の理由が見えてきます。
(1)リスクばかりを強調し事業性を評価してくれない
上記の通り、融資は収益で回収するのに100年かかります。
逆に言うと失敗を1/100に抑える必要があり、収益性とリスクを天秤にかけて勝負に打って出ることもある事業会社の感覚とはずれが生じます。
因みに、銀行にとっての失敗の指標ともいえる貸倒損失率は、全国銀行ベースで足許0.1%程度ですが、リーマンショックや金融危機の際には0.5%とか1%を超える水準に跳ね上がっています。
(2)すぐに担保を要求する
「貸出で儲けておいて、万一の際も損しないように」と思うと腹も立ちますが、そもそも金融機関の貸出ビジネス自体が実態として殆ど儲かっていない現状では、“損をしないため”と言うより、“損を少しでも減らすため”の手段という性格が強まっています。
(3)手数料を要求される
金利ではビジネスが成り立たない以上、金利以外で収益を確保するしかありません。また、手数料等の非金利ビジネスは貸倒れを考慮する必要がないため、銀行にとって魅力的です。
外から見ると首をかしげざるを得ない面も多く、一部には明らかに問題があるのも確かですが、残念ながら現状の銀行の「貸出金利では儲けられないビジネスモデル」下においては、頭ごなしに否定・批判しても、上述のような行動がなくなることはないでしょう。
むしろ、こうした特性や背景を理解したうえで、銀行と上手くお付き合いして、より自社に有利な条件を引き出す工夫を練る方が、会社にとっては有用だと思います。
最近は、9月の銀行の半期決算を控え、銀行から手数料を必要とするような提案をされることが多くなっているようです。
会社のためを思っての提案もあるでしょうし、銀行の収益のための提案もあるようです。
大切なのは、その提案の意味と、メリット・デメリットをしっかり理解することです。 会社にメリットもないことにコストを払う必要などありませんし、中には単なるコストに止まらず、将来に禍根を残しかねないようなものもあります。
そうした点を踏まえたうえで、なお、会社にとって大切にしたいと思える銀行なのであれば、貸出では得られない“ビジネスメリット”をきちんと銀行に“与えてあげる”のも一つの選択肢かもしれません。
日頃の銀行との取引での疑問や悩みなどあれば、ご遠慮なくご相談ください。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
- 1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
- 松野賢一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。