11月10日、金融庁が今年度の金融行政方針を公表しました。恐らく、一般の方の興味を殆どひかないでしょうが、金融機関の行動が行政に大きく影響される以上、金融機関との接点の多い経営者・財務担当役員等の方は、一度は目を通しておかれると良いでしょう。
その内容は、時流も反映し、ワークライフバランスからFintechや仮想通貨等も含む、広範なものですが、ここで注目したいのは業態別の金融機関の記述です。
例年、「金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保」という章立てで、業態別の課題を記載しています。 従来の記載順は、メガバンク→地域金融機関(地銀・信金等)→保険→…だったのですが、本年度は地域金融機関が最初に登場し、5頁半に亘り、課題が列挙されています。
一方で、メガバンクに関しては僅か半ページ程の記載。 金融庁が地域金融機関経営に関して極めて大きな危機意識を持っていることが伺えます。 この危機感とは、人口減少下でいち早く過疎化・高齢化が進む地方経済環境の悪化であり、これに伴い“将来的に淘汰される金融機関が出現したり、地域によっては金融サービスを提供する地元の金融機関がなくなる可能性”まで言及しています。 つまり、一般的な地域金融機関のビジネスモデルは既に破綻していると言っているのです。
これに対する地域金融機関の対応策として、以下のような記載があります。
・厳しい経営環境に直面する地域企業の中には、経営計画・戦略をどう描き、どう実現し、そのために必要な人材をどうすれば良いのか、その為の資金をどうするか、等が分からず、自身の価値向上が実現できない企業が多い
・それに対して地域金融機関は十分に顧客のニーズに応えていない
・このニーズに金融機関がしっかり対応することで、地域活性化・収益向上につながる
また、このような記載もあります。
“地域企業の価値向上や、円滑な新陳代謝を含む企業間の適切な競争環境の構築に向け…(中略)…安定した顧客基盤と収益を確保するという取り組みはより一層重要性を増している”
少しうがった見方かもしれませんが、金融庁の意図を私なりに解釈すると、“活力のある企業なしには、地域経済、地域金融機関・金融システムは維持できない。その為には地域金融機関は、活力ある企業を育て、活力のない企業を(円滑に)淘汰する仕組みを作れ”と言っているのだと思われます。
別の章では“省益でなく国益を”との記載もありますが、生産性の低い企業・産業から生産性の高い企業・産業へとリソースがシフトすることは、まさに国益なのです。 足許、金融円滑化以来の与信緩和姿勢と、空前の低金利、景気の安定もあり、多くの企業は金融面では相対的に安定した経営が可能になっています。しかし、この状況が今後も永続的に続くかというと、そうではないように思われます。
メガバンクが縮小する国内から海外に目を向ける中、中小企業がしっかり付き合うべきなのは地域金融機関、との私の考えは、上記のような環境を考慮しても変わりませんが、今後、中長期的に金融機関と付き合っていくには、次のような留意点があります。
(1) 業績が悪く、リスケや返済猶予でなんとか維持できている会社→いつまでもそれが許容されることはあり得ませんので、時限を決めて経営改善に向き合って下さい。利益(付加価値)を生まない企業がいつまでも存続し続けることはできないということを今一度認識いただきたいと思います。
(2) 業績は悪くなく既存の金融機関と阿吽の呼吸で上手く付き合えている会社→昨今の地域金融機関の統合にも見られるように、メインバンクの経営体制・経営方針が突然変わることも今後増えると思われます。永年の取引に基づく信頼関係でなく、会社の状況を客観的かつ適切に外部に伝えられる管理体制が重要になってきます。
先行き不透明な時代ですので、中長期にわたる財務体質の健全化・管理体制の強化がどうしても必要になってきます。我々アタックスはそうした会社の永続に必要な仕組み作りや金融機関交渉などをお手伝いしています。お問い合わせはこちらから
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
- 1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
- 松野賢一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。