トヨタ自動車は今年の四月からカンパニー制度へ組織改革を行いました。
トヨタグループは今や、グループ全体で年間生産台数1,000万台を突破する巨大企業です。
グループのTOPを務める豊田章男社長は社長就任直後に、北米で必ずしもトヨタの責任とは言い切れない重大クレームに遭遇しました。 この時豊田社長は米国議会の公聴会に出席を要請され喚問されるという事態も経験し経営手腕を磨いてきました。
そして今ではグループトップとして経営に自信を深め、長期視点でグループの舵取りを行っています。
今回のカンパニー制への移行も長期戦略の一つであり、豊田社長は移行の目的を
(1) 経営の意思決定のスピードアップ
(2) 将来経営を担う人材を鍛える場づくり
と言っています。
ところで今回のカンパニー制へ移行発表で、筆者の頭に浮かんだのは、経営人材を育成する仕組み作りの基本であり、京セラ稲盛和夫名誉会長が経営の柱の一つとしたアメーバシステムでした。
稲盛和夫氏は自身の著書でアメーバシステムを思い立つに到った経緯を次のように語っています。
「京セラが急速に発展し、規模が拡大するなかで、私は、ともに苦楽を分かち合い、経営の重責を担う共同経営者が欲しいと心の底から願うようになった。そこで会社の組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団に分け、社内からリーダーを選び、その経営を任せることで、経営者意識を持つリーダー、つまり共同経営者を多数育成した」
稲盛氏はアメーバ―システムの目的は三つであると言います。
(1) マーケットに直結した部門採算制度の確立
(2) 経営者意識を持つ人材の育成
(3) 経営理念をベースとした全員参加経営の実現
会社が販売する製品の価格は市場(マーケット)で決まります。
一方、製品の原価は生産工程で発生します。
アメーバシステムでは、例えば製品が複数の生産工程を経て完成される場合、最終販売価格から逆算して各工程(つまりアメーバ)毎に社内売り渡し価格を決定します。
各アメーバはアメーバのリーダーと工員が全員で力を合わせて自部門の採算を管理し、少しでも効率よく利益を(京セラでは時間当たり付加価値)上げる努力をします。
要約すればこれがアメーバシステムなのです。
リーダーをまかされれば間違いなく成長するし、メンバーは努力の成果が分かれば経営参画への意識改革にもなります。
稲盛和夫氏は大変困難と言われたJALの再生を引き受け、2年8ヶ月で会社の更生法の適用会社JALを再上場させました。
後に稲盛氏は「どのようにしてJALを再生したのか」と質問され、「私がJAL再生にあたり、京セラの同志二人と共に、JALに持ってきたのは二つだけ。ひとつはアメーバ経営。もう一つはフィロソフィと答えています。
社員に自分達が主役となって再建するという当事者意識、全社員が一丸となった全員参加経営を訴えJALを再生に導きました。
現在、日本経済は1ドル100円近辺での円高が進み輸出産業は大打撃です。世界経済の先の見通しを読むのがきわめて困難な時代ですが、こんな状況にあって会社が生き残る王道は、社員が苦しい時にこそ当事者意識を持って頑張る全員参加型経営だと思います。
稲盛氏が実践したJAL再生のプロセスを今一度学んで頂きたいと思います。
アタックスグループでは社員が主体的に経営に参画し「生きがい」と「働きがい」のある会社にするための中期経営計画の作成プログラムを提案しています。ご検討頂ければ幸いです。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 丸山 弘昭
- 数百社のクライアントについて「経営のドクター」として、経営・税務顧問、経営管理制度の構築・改善、経営戦略・経営計画策定、相続対策・事業承継、M&Aなどを中心としたコンサルティング業務に従事。幅広いネットワークと数多くの実績を生かし、経営者の参謀役、「社長の最良の相談相手」として活躍中。
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