少し前に、北海道大学の長谷川英佑准教授が発表した論文がニュースになりました。
曰く、働く蟻は2割のみで、7割はあまり働かず、1割は一生全く働かない、とのこと。
同様のことは、同准教授が何年か前に出版した「働かない蟻に意義がある(メディアファクトリー新書)」に分かり易く説明されています。
これは、よく言われる「仕事の8割は、2割の従業員が行っている」といったパレートの法則とよく似ていますが、パレートの法則は2割の重要性に焦点を当てがちなのに対して、この研究はむしろ働かない8割の役割に焦点を当てています。
よく働く2割だけを集めてみても、その中で働くのはやはり2割程度になると言われることも多いですが、この研究では、仮に全ての蟻が良く働いたらどうなるか、というシミュレーションをしています。
結果は、実はあまり働かない蟻がいる方が、組織が長持ちするとのこと。
よく働く蟻ばかりだと、疲労の蓄積等により、組織が長続きしなくなるというのです。
どうやら、蟻によって仕事に対する敏感さが異なるようです。
率先して仕事をする蟻もいれば、人(蟻)手が足りないなら仕事しようかという、おっとりした蟻もいる。
そのことが、組織の置かれた環境に応じて、適切に仕事量を保つ調整弁となっているらしいのです。
勿論、この場合、”怠け者”も必要性が高まればちゃんと働くという点で、働く意思がない、というわけではありません。
蟻の場合は、熟練度合いで作業効率にあまり差異が出ない(やれば皆同等の仕事ができる)そうです。
また、組織の危機においてはより多くの蟻が仕事をすることが解決に繋がりそうなケースが多いようです。
一方で、現代の人間の組織では、他人が容易にできない熟練を要する仕事があります。
また、経営危機においては仕事をする人を増やすよりも、コスト削減のために仕事を減らす必要があるケースも多いでしょう。
従って、一概に蟻と人間の組織を同一視するわけにはいきません。
然しながら、余力を残している組織が結果としては生き残る可能性が高い、と言う点からは少しは学ぶべきところがあるかもしれません。
実際、兵站が伸びきった組織は、変化に弱かったり、持続力に欠けたりする傾向も見られます。
また、(蟻の組織とは逆に)熟練者に頼り、人の流動性が失われる結果、業務の属人化・ブラックボックス化が進むといった弊害も見られます。
当然のことながら、蟻の組織のように、8割の社員は普段はそんなに働かなくて良いよ、という訳にはいきません。
しかし、相対的に経営環境の良い時期は、事業拡大もさることながら、教育によって個々の社員の業務対応力を高めたり、複線化によって組織の対応力を高めるチャンスかもしれません。
もちろん、好機を捉え、敢えて兵站を伸ばして事業拡大に打って出るのも経営戦略のうちですが、その場合も、将来の経営環境の変化に備え、前もって、逆境の際にはどの順番で手を引いたり、何処から何処にリソース(人だけに限らず、モノ・カネ含む全てのリソース)を移すのか、といったプランを考えておくと良いのではないでしょうか。
アタックスグループでは、組織運営を含め、経営の全般にお悩みをお持ちの経営者の皆様のご相談を承っております。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
- 1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
- 松野賢一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。