七月の終り、富士フィルムの古森重隆会長の講演会で富士フイルムが直面した、写真フィルム市場が1/10に縮小する危機を大胆な事業構造の転換で突破した体験談を聞く機会がありました。
古森会長は2000年に社長となっていますがこの段階では最高執行責任者(COO)でした。実際の経営改革は03年、最高経営責任者(CEO)に就任した時から始まります。
最初に取り組んだのが全社を巻き込んだ中期経営計画の策定でした。
翌04年2月に中期経営計画「VISION75」(富士フィルムが創立75周年を迎える2009年までの中期経営計画)を発表します。
中期経営計画策定に当たり、まず検討したのがCEO就任前から技術開発部門トップに命じていた保有技術の棚卸と応用分野の洗い出しでした。
この検討には1年半掛かったそうですが、成果は、横軸(現状技術と新技術)と縦軸(現状市場と将来市場)に整理された4象限の技術市場マトリックスでした。
このマトリックスをもとに、
(1)既存技術と既存市場
(2)新技術と既存市場
(3)既存技術と新市場
(4)新技術と新市場
の4パターンそれぞれに適用できる事業を当てはめたのです。
結果、ヘルスケア、光学デバイス、高機能材料、ドキュメント、デジタルイメージ、グラフィックシステムの6つの重点事業分野を決定し、医薬品、化粧品、高機能材料といった新事業を生み出しました。
この技術の棚卸しで作成した「技術・市場4象限マトリックス」は製造業全般の戦略策定に応用できますし、技術軸を競争力(コア・コンピタンス)と置き換えればサービス業など非製造業にも使えます。
事業の伸び悩みや縮小傾向にあって市場開拓をせまられている経営者には経営幹部とともに危機意識を持って、マトリックスの作成と新事業の検討を行うことをお勧めします。
さて、古森会長が手掛けた富士フィルムの経営改革・事業構造改革の結果は、2007年度連結売上2兆円8500億円(内、写真関連事業19%)、営業利益2100億円で、売上高・営業利益共に過去最高でした。
古森会長は「本業消失の危機に立ち向かえ、第二創業、世の中に価値のあるものを提供せよ」というメッセージで社員に訴え続け、改革にはスピードとダイナミズムが何よりも重要と、強い意志で実行し、変革のリーダーシップを発揮しました。
(1)読む(現状を把握し、将来を予測する)
(2)構想する(数字をシュミレーションしプライオリティを決める)
(3)伝える(明確なメッセージを発信する)
(4)実行する(率先垂範で断固としてやり抜く)
ことで成功を勝ち取ったのです。
古森会長は「コダックと富士フィルムの違いはどこにあったのか」との質問にこう答えます。
「事実に向き合う勇気の差にある。コダックもフィルム事業の縮小には気付いており、小出しの改革は進めていたが本業を大事にし過ぎた。大きな変化を認めたくなかったのではないか。」と。
講演の最後に語った「戦力の遂次投入は失敗する」という言葉も印象的でした。
富士フィルムほどでは無いにしろ、人口減少、内需縮小、競争激化、新技術の出現、インターネットの普及など経営環境変化が著しい時代にあって自社の既存事業の見直しを迫られている経営者も多いと思います。
“追い込まれる前に変化を起こせ!”
全社を巻き込んで経営改革推し進める、中期経営計画の策定をおすすめします。
アタックスグループでは次世代の経営陣に良質の危機感を注入し戦略脳を鍛えながら、経営計画策定や計画推進会議の旗振り役を務め変革を進めていけるよう、コンサルティングを行っております。
是非ご相談下さい。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 丸山 弘昭
- 数百社のクライアントについて「経営のドクター」として、経営・税務顧問、経営管理制度の構築・改善、経営戦略・経営計画策定、相続対策・事業承継、M&Aなどを中心としたコンサルティング業務に従事。幅広いネットワークと数多くの実績を生かし、経営者の参謀役、「社長の最良の相談相手」として活躍中。
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