「賃上げ」について考える~良いベースアップとは?

経営

「賃上げ」が増加する2023年

筆者は人事制度構築や人材開発の支援をするコンサルタントです。

今年は、例年になく「賃上げ」が新聞を賑わした年でもあり、中小企業でも大幅な賃上げに踏み切った企業が多数ありました。

昇給、賃上げには一般的に定期昇給ベースアップ(以降ベア)の2種類の要素があります。

2010年代までは景気低迷でベアは控えられてきたのですが、今年は実施する企業が増えています。

岸田首相が経済界に賃上げを要請し、社会的なムードになったことも多少は影響したと思います。

しかし、コロナ禍やウクライナ危機による物価上昇が大幅賃上げの引き金を引いていると筆者は感じています。

果たして、物価上昇に合わせてベアを行うのは、正しい考え方なのでしょうか。

今回はベアについて考えてみたいと思います。

「賃上げ」の2種類の要素

まず、定期昇給とベアについて言葉の定義をおさらいしたいと思います。

定期昇給とは

定期昇給とは、会社内にある報酬制度のルールに則り、主に年齢や勤続、あるいは評価に応じて毎年定期的に(多くの企業で年1回)、月給(基本給)を増やす行為です。

若手から年配まで、人員構成のバランスが取れていれば、ハッピーリタイアする定年退職者や再雇用契約が満了する社員の人件費分を新入社員の人件費と全社員の定期昇給に回すことが出来るため、総額人件費が増えないケースもあり得ます。

ベースアップ(ベア)とは

一方、ベアは、報酬制度で設計されている月給ルールを一律底上げする行為です。

例えば、基本給のルールとして、20万円から50万円の下限・上限を決め、その範囲で社員の基本給を決めていた場合、1万円のベアをすると、21万円から51万円の下限・上限にルールが改められます。

原則、枠組み自体の変更ですので、全社員が1万円のベアの恩恵を受けられることになり、かつ、定期昇給分も合わせた昇給となります。

ベア実施のリスクと目的

実際には、等級制度が導入されていれば、等級ごとにベアの水準を変更し、引き上げた下限に満たない人だけベアの恩恵を与え、会社の状況に合わせてアレンジを加えるのですが、底上げ行為であることに違いはありませんので、原則、総額人件費が増えます。

総額人件費が増える場合、売上高や付加価値が上昇しない限り、利益が減少します。

本来ベアは、社員と企業が成長し(つまり売上高や付加価値が上昇し)、企業体力の底上げがなされたときに実施されるべきです。

あるいは企業体力の底上げを期待して、先行投資的に実施することが望ましいでしょう。

しかし、物価高に伴う賃上げには、企業体力の底上げという視点がありません。

総額人件費の上昇を、売上単価に転嫁しやすい企業なら良いですが、そうでない場合は恒久的に利益率を低下させる行為とも言えます。

物価高を理由にしたベアは望ましくない

とは言え、筆者は賃上げに否定的なわけではありません。

ベアで賃上げをする場合、物価高を理由にすることは望ましくないと考えるだけです。

その理由として、社員にポジティブなメッセージを発信できないからです。

物価高対応のベアの場合
「電力代や食料費が値上がりしているので、ベアを行いました。」

人的投資のベアの場合
「皆で知恵を出し合って、付加価値アップを目指しましょう。それを期待してベアします。」

どちらが良いでしょうか。

ちなみに、物価を理由にベアを行った場合、物価が下がればベースダウンをすべきですし、その考え方は理屈として間違っていません。

ベースアップ、ベースダウンの両方をルールとして運用することを、ベースアジャスメントと言うのですが、ルールとして設計しても、ベースダウンをする企業が日本では圧倒的に少なく、筆者が関わってきた会社様では、たった1社のみです。

ベアは是非、社員と会社の成長のために、実施してください。

また、等級制度などが導入されている会社であれば、等級要件など、社員に期待する役割を記述した資料もあるでしょう。

ぜひ、その資料もブラッシュアップし、期待される役割そのものをベースアップしてください。

本来のベアは、役割のベアと基本給のベアがセットが望ましいといわれています。

期待される本質的なベア

先日、厚生労働省の毎月勤労統計速報値が出ました。実質賃金が前年同月比で3.0%のマイナスだそうです。

実質賃金とは、物価の変動を考慮した賃金のことです。物価が上がれば実質賃金は下がり、物価が下がれば実質賃金は上がります。

一方、名目賃金とは、物価の変動を考慮しない賃金のことで、労働者が実際に受け取った給与のことです。

日本では、この30年近く実質賃金の伸び率が主要な欧米各国と比べて低くなっています。

速報値では、実質賃金の低下は13カ月連続で、名目賃金は16カ月連続の増加でした。

是非とも、物価上昇を上回る、本質的なベアを検討頂きたいと思います。

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人事・評価・報酬制度改革

筆者紹介

株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング 取締役副社長 永田 健二
1999年 静岡大学卒。中期経営計画策定支援、組織風土分析支援、人事制度構築支援、人事制度運用支援などに従事。新入社員研修、中堅社員研修、管理者研修、各種個別研修など研修講師としても活躍中。
永田健二の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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