新型コロナウィルスによる感染被害の拡大がとまりません。
感染により亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、感染された方、影響を受けているすべての皆様に心よりお見舞い申し上げます。
日本でも感染された方々が増加しており、今後の拡大が懸念されていますが、それに加えて日本経済にも大きなマイナスの影響が懸念されています。
来日観光客の減少による消費の縮小やマスク等の衛生用品の欠品と日常生活でも目に見える変化があります。
また、海外で生産している部品の供給不足により自動車産業等の製造業のサプライチェーンにも歪みがでてきており、その経済損失は計り知れないものがあります。
今後の状況によっては、従業員の就労等の企業経営の根幹にかかわる影響がでてくる可能性がありますので、どの企業にとっても他人事ではなく、その対策を事前に検討しておく必要がありそうです。
不測の事態発生に備える
こういった対策のひとつにBCP(Business Continuity Plan 事業継続計画)の策定があげられます。
BCPとは、大地震などの自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーンの途絶、突発的な経営環境の変化等の不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、又は中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことを指します。
つまり、BCPにより不測の事態が起こっても復旧方法が明確になっているから、復旧の度合いやスピードが大きく改善されるのです。
2019年度版中小企業白書によれば、東日本大震災で被害額が1億円以上あった企業の、被災1年後の売上高を見てみると、BCPを策定した企業の売上高は、策定していない企業の売上高と比べて4割近く上回っており、BCP策定には一定の効果があることを示しています。
一方で、中小企業全体でBCPを策定しているのは全体の約17%程度と、その普及はまだまだ道半ばです。
・人手不足
・複雑で取り組むハードルが高い
・策定の重要性や効果が不明
・法的な義務ではない
等があげられます。
このうち、策定の重要性や効果が不明という点については、東日本大震災の統計情報等で一定の効果があることが判明しています。
また、法制度化はされていませんが、最近はサプライチェーン単位でBCPを検討することが増え、取引先や仕入先からBCPの策定を要請される場合もあるそうです。
従って、人手不足やBCPの内容が複雑といったことが、BCPの普及を妨げていることが伺えます。
リスク管理となるBCPの内容って?
それではBCPとはどんな内容なのでしょうか?
中小企業庁がまとめている中小企業BCP策定運用指針によれば、BCPの主な内容は次のとおりです。
(2)緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めておく
(3)緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客と予め協議しておく
(4)事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替策を用意しておく
(5)全ての従業員と事業継続についてコニュニケーションを図っておく
つまり中核事業が停止した場合を想定し、そのリスクと対策を従業員や顧客、仕入先等の利害関係者と共有して、不測の事態が行った時に手順通りに対応できるようにしておくということなのです。
BCPとしてうまくまとめようと思うと複雑でハードルが高いように感じます。
しかし、(1)~(5)の要点だけを検討すればよいのであれば、着手しやすいのではないでしょうか。
すなわち、自社のビジネスモデルやバリューチェーンを把握し、それぞれの機能が停止した場合のリスクおよび復旧対策を検討し、従業員や取引先等の利害関係者に共有すれば、第一歩のリスク対応として機能するものと考えられます。
中期経営計画や年度計画を策定している企業の場合、ビジネスモデルやバリューチェーンの分析を行い、経営課題を抽出することが多いと思います。
その際にBCPの発想を用いてリスク対策を追加で検討すればよいのです。
昨今の経営環境は、従来の企業間の競争環境に加え、気象や災害といった外部環境も大きく変化しています。
これらの不測の事態に備えた事業継続計画を検討しておくことは、経営のリスク管理として極めて重要です。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役社長
中小企業診断士 池ヶ谷 穣次 - 1993年 静岡県立大学卒。MBA。中堅中小企業の経営管理制度・管理会計制度構築サポート、事業再生サポート、財務・事業デューデリジェンス業務、M&Aサポート、株式公開支援、月次決算支援業務等に従事。システムエンジニア時代に得たシステム思考を応用し、経営者・経理責任者の参謀役として活躍中。
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