天才ポール加入時、ジョンの決断とは?
過日、NHKのバタフライエフェクトという番組で”ビートルズ”の特集を放送していました。
黎明期のビートルズ(ビートルズと名乗る前)はジョン・レノンが結成し、後からポール・マッカートニーが加入します。
ポールを加入させる際、ジョンには、グループを強化するのか、自分の地位を強化するのか、という葛藤があったそうです。
勿論、ジョンはポールの才能に惚れ込んで自らのグループに誘うのですが、現メンバーよりボーカルも演奏も明らかに上手いポールを加入させると、グループを強化できる反面、グループ内の不和、なかんずく自分の地位を危うくするかもしれないと懸念しました。
結局、ジョンは『グループのレベルを上げること』を選びました。
この決断が、後の世界的・歴史的な音楽グループを生み出すことになります。
優秀な人財への嫉妬が組織にもたらす影響
組織においては地位が高い人が、自分より能力の高い人を組織に迎えた時に、色々な軋轢を生むケースがあります。
自分の地位が脅かされる、自分の思い通りにならない、等の理由で相手を邪魔したり、疎外したりして機能不全に落ちいらせ、果ては組織から退出させてしまうような事態は大なり小なり色々な組織で発生しています。
オーナー企業の場合、オーナー社長の地位が脅かされるようなケースは少ないでしょうし、優秀なイエスマンであれば重宝するかもしれません。
ですが、そうでなければ、諫言がうるさい、自分の面子が立たない、等の理由で煙たい存在となるケースも多いのではないでしょうか。
それにより、優秀な人が、組織を去ったり、機能不全になったり、単なるイエスマンに成り下がってしまうようでは、組織として貴重な成長機会を逃していることになるでしょう。
志村けん加入時、加藤茶の”葛藤”
話は変わりますが、ビートルズと言えば、日本のドリフターズと縁があります。
今でこそコントやギャグのイメージから、コメディアンとしての印象が強いグループですが、元々は音楽バンドとして活動していたことも広く知られており、ビートルズ来日公演時にはその前座を務めたほどの功績と実績を持つグループです。
コント主体になってからのドリフターズでは、全てのオチを拾う加藤茶が圧倒的な人気を誇っていました。
志村けんは、グループや加藤茶の付き人という下積み時代を経て、メンバー欠員補填時に加藤茶の推薦により正式メンバーに選ばれたのです。それから数年で一気にブレイクし、加藤茶をしのぐ人気を得るようになります。
この状態は、元々グループのエース格だった加藤茶としては複雑な気持ちだったようです。
ある番組で、「こいつには負けちゃうのかなとの複雑な思いがあった」「自分より志村の方が観客の笑いが大きい、どうしようとかなり悩んだ時期もあった」などと話しています。
加藤茶がグループのために乗り越えた壁
悩んだ期間はそれなりに長かったようですが、最終的に吹っ切れたのは、「より盛り上がるなら、グループ全体にとってはその方が良い」「仲が悪いと、コントをやってもお客さんはそれを敏感に感じとって楽しんでもらえない」と思うに至ったからだそうです。
ジョン・レノン同様、色々葛藤はあれど”グループを良くする”、”お客に楽しんでもらう”というぶれない軸があったからこそ乗り越えられた壁なのでしょう。
加藤茶の場合、組織上、上にはいかりや長介が居たので、リーダーだったジョンとは少し立場が違うかもしれません。組織のトップでなく、あくまで組織のエースだったわけです。
いかりや長介の敏腕な統率力
ちなみに、”卒に将たるは易く、将に将たるは難し”との中国の故事成語があります。これは、漢の初代皇帝劉邦に対してその重臣であった韓信が述べた言葉です。
ざっくり言うと
私(韓信)は将軍として軍隊を指揮する能力は陛下(劉邦)よりも遥かに上だが、陛下は将軍たちを指揮する能力が私よりも高い(なので私は一将軍として陛下に仕えている)
という趣旨です。
劉邦は韓信以外にも、蕭何・張良はじめ多くの功臣を得て中国を統一します。
このことから言えることは、優秀なコメディアンを容認できる加藤茶を抱えることで、結果としてグループに二人の希代のコメディアンを擁することとなったいかりや長介は、コメディアンの”将の将”として優秀だった、と言うと褒め過ぎでしょうか。
組織のトップにとって”重要なこと”
これらのエピソードから導かれることは、ありきたりではありますが、組織の上に立つ人間にとって大切なのは、”嫉妬・私怨等に左右されず、ぶれずに組織目的の実現を図れる人”あるいはそれ以上に大切なのは、”そうした人を如何に見つけ、育て、権限を委ねていくか”ということになるかと思います。
なお、今回美談のように取り上げた上述のケースですが、ジョンとポール、志村けんといかりや長介は、その後、疎遠となっています。韓信は劉邦に警戒され疎んじられた結果、謀反を企だて殺されています。
いずれの例からもこうした理想的な状態を作れたとしても維持することは非常に困難であることが伺えます。
だからこそ、強い組織を作り維持していくためには、不断の努力として、折に触れ、上記のような点に照らして、自分自身や組織の状況を冷静に見つめる機会を持つことが必要になってくるのです。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
- 1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
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