先行き不透明な時代と中小企業の現状
ポストコロナでライフスタイルやマーケットのあり方が激変していることに加えて、ロシアのウクライナ侵攻や円安等によるエネルギーコストや原材料の高騰、政府主導によるデフレ脱却のための人件費の上昇等、日本の中小企業にとって非常に難しい舵取りが続いています。
2023年の中小企業白書では、物価高騰による収益の影響でマイナスと評価している企業が2020年は40%であったのに対し、2022年では65%と全体の2/3の企業にまで影響を及ぼしているようです。
対策①値上げ交渉
その物価高の対応策としては、
②人件費以外の経費削減(22.3%)
③業務効率改善による収益力向上(20.8%)
が上位に並んでいます。
②と③は自助努力で対応しようとしていることが伺えるのですが、昨今の物価高騰はそれでカバーできる水準を超えており、①の得意先への価格転嫁の交渉に踏み切る中小企業が多くなっていることが伺えます。
私も中小企業の事業計画策定をお手伝いすることが多いのですが、数年前に策定した計画と比べるとエネルギーコストは倍くらいに増加しているケースもあり、自助努力でカバーできる水準を超えているというのが実感で、価格転嫁は中小企業にとってまさに生き残りをかけた課題となっています。
適切な価格転嫁に向けた取り組み
現在、この物価高騰による価格転嫁は国をあげて取り組んでいます。
中小企業庁として9月と3月は価格交渉促進月間としており、親事業者と下請事業者で適切な価格転嫁ができるような取組みが実施されているようです。
この取組みでは、「情報公開や結果を踏まえた大臣名での指導・助言等を実施」と踏み込んでいるようですので、これらを参考にしながら価格転嫁交渉に取り組まれるのも一つの手法ではないでしょうか。
価格転嫁の実態
また、中小企業白書では業種別の価格転嫁率を公表しており、1位の「石油製品・石炭製品製造」では46.9%、27位の「トラック運送業」でも20.6%と一定の価格転嫁は認められるようになってきているようです。
しかし、1位の業界で50%程度ですので、まだまだ道半ばと言えるでしょう。
私も価格転嫁については色々なお話を聞きますが、
②消費財については、代替品も多く、消費者が価格にシビアなため、値上げに踏み切れないし、受け入れられにくい状態
というのが実感です。
ただ、大企業・中小企業問わず、人口減少等による人手不足が恒常的になることが予測される中、賃上げ格差が広がれば広がるほど人財確保が難しくなりますので、人件費高騰に備えた価格転嫁は、中小企業にとっても必要不可欠な対策といえるでしょう。
国の実施している施策や補助制度等、中小企業にとって活用できるものは全て活用して価格転嫁に取り組むべきです。
対策②ビジネスモデル変革
そして、2023年の中小企業白書では、『価格転嫁に加え「国内投資の拡大、イノベーションの加速、賃上げ・所得の向上の3つの好循環」の実現』を提言しており、そのためには『競合他社が提供できない価値の創出により、価格決定力を持ち、持続的に利益を生み出す企業へ成長を遂げることが重要』としています。
これは、まさにビジネスモデルの変革を意味しており、中小企業にとって価格転嫁と両輪で取組むべき大きな課題であると言えます。
国領二郎氏によれば、ビジネスモデルとは「四つの課題に対するビジネスの設計思想」と定義しており、その四つの課題とは次のとおりです。
②その価値をどのように提供するか
③提供するにあたって必要な経営資源をいかなる誘因のもとに集めるか
④提供した価値に対してどのような収益モデルで対価を得るか
つまりビジネスモデルの中核をなすのは事業ドメインであり、その変革とは事業ドメインの構成要素である“誰に”“何を”“どのように”のいずれか、もしくは複数を変革することにあるのです。
激変する経営環境の中、自社の事業ドメインの要素をどう変革すべきなのか、その変革により何を目標とするのかを、経営陣で検討し、中期経営計画に落とし込み、全社員で共有して、組織で実践することが、中小企業にとって大事な経営手法となるのではないでしょうか。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役社長
中小企業診断士 池ヶ谷 穣次 - 1993年 静岡県立大学卒。MBA。中堅中小企業の経営管理制度・管理会計制度構築サポート、事業再生サポート、財務・事業デューデリジェンス業務、M&Aサポート、株式公開支援、月次決算支援業務等に従事。システムエンジニア時代に得たシステム思考を応用し、経営者・経理責任者の参謀役として活躍中。
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