中国経済の現状
中国の2021年経済成長目標が「6%以上」に設定されました。
コロナの影響で特に2020年前半は経済活動が停滞しましたが、その後の回復を考慮すると高い目標値でもなさそうです。(直前の2020年第三四半期は+4.9%、同第四四半期は+6.5%となっています。)
コロナで苦しむ先進各国を尻目に一人勝ちの様相を呈しています。
成長率目標発表後すぐに、2021年1月~2月の経済指標実績が発表されました。どれも堅調です。
例えば、輸出は前年比(以下同じ)+60%と大幅に伸びています。
不動産投資は+38.3%、社会消費額は+33.8%となり、景気をけん引する主要な要素で大幅成長です。
コロナがなかった2019年と比べても不動産投資は+15.7%、社会消費額は+6.4%でプラス成長を保っています。
全国都市登録失業率は1月が5.4%、2月が5.5%で12月の5.2%からは若干悪化していますが、毎年、春節前後には失業率が悪化する傾向がありますので、時期的なものと見ることができます。
このように足元の統計が示す中国経済は堅調ですが、懸念材料がないわけでもありません。
中国経済の3つの懸念材料
特に以下の3点が指摘されています。
輸出環境の変化
今現在輸出は好調ですが、これはコロナの影響により外国の生産活動が停滞しているからで、コロナが収束し外国の生産活動が回復すると中国からの輸入品に頼る必要が無くなるため、今のような好調な輸出を維持できないとの指摘があります。
逆に、外国経済が回復すると、世界全体の景気が良くなって中国の輸出産業にもいい影響があるとする専門家もいますが、中国包囲網が構築されつつあるため世界経済回復の恩恵を受けられるかどうかは不透明であるとも言われています。
輸出入のGDPに占める割合は低下していますが、輸出産業に従事する従業員は依然として多いため、輸出低迷は中国経済にとっては不安材料です。
中国版総量規制の導入
不動産価格抑制は大きな課題となっていますが、これをさらに強化するため、1月1日から金融機関の不動産部門への貸し出しを制限する規制がスタートしています。
かつて日本でも総量規制という貸出規制がありましたが、これに似た政策となっています。
日本ではこの総量規制をきっかけに、株価が下がりはじめ、次いで土地価格が下がりバブルが崩壊、長い不況に突入し今に至ります。
ただ、1月~2月の住宅新築価格指数はむしろ上昇しており、また、不動産会社の資金調達も+51.2%、コロナの影響がない2019年比でも+24.7%で調達に支障が生じている様子は見られず、いまのところ大きな混乱はないようです。
とはいえ、これまで導入されてきた購入制限に加えて、貸出制限も始まりましたので、今後は不動産価格に大きな影響が出るかもしれません。
財政赤字の削減
全人代では財政収支の目標値も示されますが、2021年は財政赤字目標となりGDP比で3.2%前後に設定されました。
2020年も財政赤字目標でしたがその割合は3.6%以上でしたので、約0.4ポイントの引き下げとなりました。
財政健全化や管理為替制度下での外貨準備高(又は人民元相場)維持への対応ともいえますが、公共部門の支出削減でもありますので、景気を押し下げる可能性が指摘されています。
一方で、金融機関に対して、特に中小企業向け融資を増やすように指示が出ていますので、これらの政策などで民間の経済活動をバックアップし、また、貨幣供給量も増やして景気や物価上昇を下支えするものと思われます。
なお、これまであまり融資をしてこなかった中小企業に貸出する場合、金融機関の与信判断が甘いと不良債権が増加することが予想されます。
これが銀行経営を圧迫すると貨幣供給量が減少し(貸し渋りや貸し剥がし)、景気下振れや物価下落を引き起こすリスクがあるため、金融部門の不良債権比率と自己資本比率のモニタリングは必要だろうと思います。
足元、物価上昇率はプラスではありますが、上昇率が高い一部の品目を除くと横ばいのものが多く、特に生産者物価指数はここしばらくデフレ傾向でした。
デフレが定着しそれが企業業績を悪化させると景気後退となりますので、財政赤字削減のタイミングが注目されています。
中国経済の今後の見通し
以上が、主に指摘されている懸念材料です。
足元好調な中国経済ですが、上記や米中衝突などの不安材料があるのも事実です。
今年7月は共産党結党100周年のため、なりふり構わず景気を維持すると思いますが、以降は見通しにくい状況になる可能性があります。
何が起こっても対処できるように、今からシミュレーションをしておくと安心です。
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筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 海外サポート室 室長 諸戸 和晃
- ミサワホーム勤務を経てアタックス入社。株式公開、企業再生、M&A支援等のコンサルティング業務に従事。2011年より2年間北京赴任。赴任中は北京中央財経大学への語学留学、中国系会計事務所「中税咨询集团」(北京)で業務。帰国後、海外サポート室の室長として、中堅中小企業の海外進出に関する支援業務に注力している。
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