新型コロナウイルス感染症の流行をいち早く抑えた中国では、経済活動の正常化に向けた動きが加速しています。
外国人の中国への渡航についても制限が緩和され、9月28日の中国外交部の通達により、工作類などの居留許可を保有する外国人は、新たなビザを申請することなしに入国できるようになりました。
(飛行機の搭乗にはPCR検査陰性証明が必要です。)
中国国内に赴任する世界各国の駐在員が中国に戻りやすくなり、現地での経営活動活発化に貢献しそうです。
経済活動の回復は経済統計にも現れており、社会消費支出は年初以来マイナス成長でしたが、8月に前年比+1.1%となりプラス成長に転じました。
また、主要産業の自動車業界も好調で、8月の中国国内販売台数は前年比+11.6%と大きく伸びています。これで5か月連続のプラス成長です。
中国経済の政策「大循環、双循環」とは?
順調な回復を見せる中国経済ですが、中国政府は消費をさらに促進するような政策を打ち出すようです。
そのベースになるのが5月23日の全国政協会議で習主席が提唱した“大循環、双循環”政策です。
習主席演説の主な内容は以下です。
・完全な内需システムの構築を加速する
・国内“大循環”を主として、国内国際“双循環” の相互促進の新たな発展局面を形成する
中国国外メディアの中には、“大循環”の発言をとらえて、デカップリングに備え中国経済が鎖国に向かうのではないかとの意見もあるようですが、中国国内ではそのようには理解されていません。
国内需要をさらに掘り起こし、その魅力で外国企業の中国国内投資を引き続き促進して、中国市場の果実を国際社会とともに分け合おうという概念だと理解されています。
国内国際“双循環”を促進するための、国内“大循環”という位置づけです。
中国国内消費は拡大し続けており、2019年はGDP成長に対する貢献比率が57.8%となり6年連続してGDP成長を最もけん引しています。
ただ、個人消費のGDP比は40%に満たず、1人あたりGDPも1万米ドルを超えたばかりです。まだまだ成長余力がある(又は成長させなければならない)と中国政府は考えているようです。
消費をさらに拡大させる環境を整える
“大循環、双循環”の提唱を受けて、最近では、9月16日に
《新業態新様式による新型消費加速発展の意見》などの政策方針が打ち出されています。
本意見によると、政策目標として、今後3年~5年内に新型消費発展システムなどを完成させ、消費を拡大させる環境を整えるとしています。
ネットにおけるサービス消費(医療、教育、ライブコマースなど)を安全に提供できる環境の構築や、ネットビジネスとリアルビジネスの融合促進などが掲げられています。
ネット大手のテンセントは、1,600億円を投じて、中小企業のDX促進のためのSaaSプラットフォームを構築すると発表しました。
テンセントのようなネット企業が、リアルビジネスを主とする中小企業の高度化を支援するようなビジネスがスタートしています。
中国では経済成長に伴い、消費の高度化や多様化が始まっていますので、好調な日系自動車など、質の高い日本企業の商品や製品は支持を集めそうです。
また、中国ビジネスの形態も複線化しており、日本企業が中国企業と日本国内で合弁会社を設立して製品を中国に向けて販売するという動きも出てきています。
日本国内での合弁であれば、慣れない中国に進出するよりは安全ですのでリスクを抑えることができ、かつ、魅力的な中国市場を取り込むことが可能です。
私はこれを“ホーム・グローバル”と名付け、考えを同じくする有志とともにこのコンセプトの普及や日中企業のマッチングを模索しています。
“大循環、双循環”時代の中国は、消費がさらに拡大しそうです。
もちろん、政治的なリスクなどもありますので、中国政府、なかでも習主席の発言の変化を注視し、リスクをコントロールしながらビジネスのかじ取りをせねばなりません。
私は、中国の最新情報を、「中国ビジネスチャンネル」というブログで配信しています。
ブログでは、刻々と変化する中国政府の政策や法制度を毎日アップしています。
最新の情報を入手していただき、貴社の戦略意思決定の材料としてお役立ていただければと思います。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 海外サポート室 室長 諸戸 和晃
- ミサワホーム勤務を経てアタックス入社。株式公開、企業再生、M&A支援等のコンサルティング業務に従事。2011年より2年間北京赴任。赴任中は北京中央財経大学への語学留学、中国系会計事務所「中税咨询集团」(北京)で業務。帰国後、海外サポート室の室長として、中堅中小企業の海外進出に関する支援業務に注力している。
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