3月末が近づくこの時期、多くの経営者が、新事業年度の経営戦略を熟考されていると思います。
2022年の企業経営は、国際情勢に大きな影響を受けました。
ウクライナ戦争、中国のゼロコロナ政策、アメリカの金利政策などのグローバル経済の激しい変化の影響を受けて、日本企業は原価高や海外売上高の減少に直面し、業績を落とすことになりました。
経営戦略を考える上で、グローバル経済の動きとその影響を分析し、対策を検討しておくことは重要な視点になりますが、現在のグローバル経済のメインプレイヤーは、欧米と中国です。
そこで本日は、経営戦略を考える際の参考にしていただくため、2023年の中国経済の見通しを展望したいと思います。
中国経済2022年の振り返り
2022年の中国経済はご承知のとおり不振を極めました。
GDP成長率は3.0%と、この数年で最も低い成長率となりました。
2023年の展望を考える前に、2022年の不振の要因を複眼的に掘り下げ、要因がどこにあったのかを考えたいと思います。
消費
2022年の消費総額は43兆9,733億元となり、前年比▲0.2%でした。
上海ロックダウン解除後に持ち直しましたが、11月、12月が前年割れとなり、年間でも前年割れとなりました。
落ち込みが大きいのはサービス業で、特にレストランは▲6.3%と大きく落ち込みました。
ゼロコロナ政策の影響が色濃く出ています。
輸出入
2022年12月単月の総輸出は306百万ドル、総輸入が228百万ドルで、それぞれ▲9.9%、▲7.5%となりました。
輸出のほうが減少したため、純輸出は縮小しました。
輸出先地域別では、EUが▲17.5%、アメリカが▲19.5%で、10月以降マイナス幅が拡大していて、輸出不振は継続しています。
ただ、経済成長に占める純輸出の割合は小さく、3%以下となっています。
投資
2022年の農業部門を除いた固定資産投資は57兆2,138億元となり、前年比+5.1%でした。
消費に比べて好調に見えますが、会社形態別にみると、国有が+10.1%、民間が+0.9%で、官主導になっています。
日本企業の中国子会社を含む外資は▲4.7%で、投資を手控えて様子を見ているようです。
結果として、企業業績は低迷し(大規模工業企業の利益総額は▲4%)、失業率も足元改善しつつありますが高止まりしています。
中国経済不振の主たる要因
これらのことから、不振の主たる要因は以下になると考えられます。
- コロナによる消費減退
- ウクライナ戦争による輸出不振
- コロナ、輸出不振、原価高による民間企業業績の低迷とそれによる民間投資の減退
中国経済2023年の展望
IMFが先日、中国経済の経済成長率見込みを上方修正しました(これまでの4.2%から5.2%に修正)。
筆者個人も5%以上は成長すると考えています。
理由は、2022年の経済不振を招いた要因がある程度取り除かれると予想されるからです。
- ゼロコロナは過去のものとなり、足元のサービス業の景況感は大幅に回復している
- 原価高は為替相場やウクライナ情勢次第ではあるが、為替についてはアメリカの金利上昇ペースは落ち着きつつある
- 輸出は欧州経済の不振要因であるウクライナ次第ではあるが、GDPに占める純輸出の割合は3%程度なので、落ち込んでも大きな影響はない
これらのことから、企業業績は改善し、民間投資も回復すると思われます。
一方で、不動産は苦しい状況が続きそうです。
金利引き下げなど様々な対策をしていますが、2023年1月単月の業界トップ100の販売額の前年同月比は▲31.7%となり、依然として販売不振が続いています。
しかし、不動産不況は、すでにある程度織り込み済みですし、人口減少が見込まれる状況で、経済成長を不動産がけん引する構造は長くは続きませんので、この段階で、調整を入れることはある意味、合理的な政策判断ではないかと思います。
貸し渋りや貸し剥がしを、政府が主導するということもありませんし、税務面では、未控除増値税を還付することで企業への資金投入をするなど、苦しい中小企業を支援しています。
不動産不況の影響は、これ以上大きくなることはないと思われます。
ということで、2023年の中国経済は2022年の最悪の状態を抜け出しそうですので、中国で販売している企業、中国に販売している企業にとっては追い風になります。
ただ、中国経済が過熱すると円安元高に振れる可能性がありますので、こうなると、円建て取引の中国子会社は為替差損が発生し業績を落とすことになりかねません。
また、中国企業が生産を増やすために材料を買い漁ると、材料の国際価格がさらに上昇する可能性もあり、中国と取引していない日本国内企業でも仕入値が上がるなどで、業績に影響がでそうです。
中国の動向は、日本企業にとってプラス面もマイナス面もありますので、各社の中国との関わり方に応じて、どのような影響がありそうかを詳細に分析する必要がありそうです。
アタックス海外サポート室では、経営戦略の立案や見直しに参加し、検討の際に欠かせない中国経済の情報を提供し、議論を深めるお手伝いをしています。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 海外サポート室 室長 諸戸 和晃
- ミサワホーム勤務を経てアタックス入社。株式公開、企業再生、M&A支援等のコンサルティング業務に従事。2011年より2年間北京赴任。赴任中は北京中央財経大学への語学留学、中国系会計事務所「中税咨询集团」(北京)で業務。帰国後、海外サポート室の室長として、中堅中小企業の海外進出に関する支援業務に注力している。
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