今回は、策定した中期経営計画をどのように推進し、進捗管理していけばよいのか、解説していきます。
中期経営計画を苦労して作成したものの、結局は「絵に描いた餅」に終わってしまい失敗だった…と感じている企業も多いのではないでしょうか。
実は、失敗しないためには、3つのポイントがあります。
中期経営計画を作成する目的
中期経営計画は作成することが目的ではありません。
中期経営計画を作成する目的は、会社の目指す方向性を全従業員に浸透させ、実際に会社がその方向へ進みやすくすることであり、実行が伴わなければ意味がないのです。
そのためには、中期経営計画が従業員や経営陣にとって納得のいくものとなっていること、また、中期経営計画の進捗状況を絶えず確認し、必要な対策をとっていくことが重要なのです。
そこで、中期経営計画が失敗に終わらないよう「魂を入れる」ポイントを、
2.各担当者の「行動進捗シート」の作成
3.モニタリング体制(進捗管理体制)の構築
の3つの視点から説明を進めます。
1.中期経営計画の策定主体
中期経営計画とは、社長が描いている経営戦略を他の経営陣や従業員に対して「視える化」したものといえます。
ここからいえば、その策定主体は社長といえます。
ベンチャー企業や20~30人規模の会社であれば、これでいいかもしれません。
この規模であれば、社長自身が思い・考えを1対1で伝え、中期経営計画を従業員等に「腹落ち」させていけます。
しかし、企業が100人を超えるような規模になってくると、社長は1対1で自分の考えや思いを全従業員に伝えることは難しくなります。
また、社長が事業を細部まで把握するのもこの規模では困難になっているでしょう。
そこで、将来会社を背負ってくれるような従業員・経営陣と一緒に作成したり、彼らに策定を任せます。
社長は口出しをしたくなるかとは思いますが、そこはぐっとこらえてアドバイス程度にとどめておくことが大切です。
徹底的に幹部や従業員に考えさせ、自分たちが主体となってこの中期経営計画を策定したと思ってもらうことが重要なのです。
幅広く会社の英知を結集できるだけでなく、「自分たちが主体となってつくった計画」と思ってもらうことにより、彼らがその計画に責任を持ち、実行していくことも期待できるようになります。
2.各担当者の「行動進捗シート」の作成
中期経営計画で掲げた目標の実行可能性を高めていくには、全社的な経営戦略や経営目標を、従業員が「日常業務の中で達成すべき項目」に置き換えていく作業が必要となります。
各部門が中期経営計画を実行しやすいように達成目標や行動項目に至るまで、できるだけ具体的にブレークダウンします。
これにより、すべての従業員レベルまで、中期経営計画に対して自分は何をなすべきかが、より理解しやすくなるのです。
従業員レベルへのブレークダウンは、中期経営計画の目標をどうやって達成すべきか、そしてそれが予定通りに進んでいるのかを検証するために、「行動進捗シート」に落とし込むのが有効です。
「行動進捗シート」により、日常業務の中で達成すべき項目を多くの従業員に「視える化」することが可能になります。
上の図は、ある商社のX地域事業部のケースです。
この事業部ではA分類(営業利益率30%以上)、 B分類(同20%)、 C分類(同10%)の商品を扱っています。
ここで、同社の中期経営計画では、3年後に全社で営業利益率20%を達成という経営目標が掲げられました。
このケースで、「行動進捗シート」をもとに検討されるべきポイントは以下(a~f)の通りです。
a) 経営目標・経営戦略を達成するための課題の明確化
中期経営計画で規定された経営目標または経営戦略を達成するために、自分たちの克服すべき課題は何かを明確にします。
「営業利益率20%」を達成するためには、製品ごとの営業利益率アップ、プロダクトミックスの変更(利益率の高い商品を重点的に売っていく)など、いろいろな課題を挙げることができます。
このように最初に経営目標を達成するための「課題」を明確にします。
(上の図では最左列の「経営課題・取組課題」列)
b) 具体的な達成目標の設定
次に、その課題を克服するための具体的な「達成目標」を設定します。
上のケースで説明します。
課題を「プロダクトミックスの変更」と判断した場合、この課題を解決するために、商品の売上構成比を今の割合から「A分類の商品を2倍にし、一方C分類を半減させる」というような達成目標を設定するのです。
c) 具体的な行動項目の検討
つぎに、前項の「A分類の商品の売上を2倍にし、C分類を半減させる」という達成目標がクリアできるよう、具体的な「行動項目」を検討・設定します。
例えば、 A分類の商品の販売促進のためのキャンペーンの実施などです。
d) 責任者・担当者の決定
行動項目が設定されたら、次に検討するべきは、それを誰が責任を持って実行するか、また、その実務担当者は誰かを明確にすることです。
そのうち誰かがやるだろうでは、計画の達成はおぼつきません。
e) 明確なスケジユール化
ここまでの検討で、誰が何をやるかが明確になってきました。
あと残った大きなポイントは、いつからいつまでに実行するかということです。
この期日管理ができていないと、結果的に目標達成がずるずると後ろにずれていき、最後には達成できなかったということもよくあります。
この販促キャンペーンのケースでいえば、いつから企画をはじめ、業者との交渉時期、実際の販促実施時期等をいつにするかなど、スケジュール化して、明確にしていきます。
f) 進捗状況の確認と打ち手の検討
実行後は、必ず進捗状況の確認をしていきます。
目標は計画通りに達成されているのか、できていない場合、なにが原因なのか、さらに、いつまでにどういう行動の修正を行い目標を達成するのか、などを検討します。
これが中期経営計画の達成のためには特に重要なポイントとなります。
詳しくは次回「中期経営計画の達成のためには3点セットでチェックする」以降で解説いたします。
3.中期経営計画のモニタリング体制(進捗管理体制)の構築
さて、上記の中期経営計画の実行性を担保する「会社の仕組み」として、中期経営計画のモニタリング(進捗管理)を有効に働かせるための体制を説明いたします。
モニタリング体制は、大きく分けると3つのパーツから成り立っています。
(1) 計画策定の仕組み
これは、中期経営計画そのものを策定していくプロセス(「中期経営計画の5つの策定プロセス~その意味を知ろう」を参照)と、それを単年度の予算や各担当者の行動計画に落とし込んでいくプロセスのことです。
(2) 人事制度(評価)の仕組み
中期経営計画をより有効に機能させようとすれば、人事制度との関連性を高めていくべきです。
すなわち、「行動進捗シート」における達成度合いや予算達成などを、人事評価に組み込むことにより、さらに計画に対する従業員の果たすべき責務を遂行するという意志、「コミットメント」を引き出すことができます。
(3) 経営会議(計画推進会議)
さらに、中期経営計画の進捗度合いや各部門の行動進捗をモニタリングするため、関係者が集まる経営会議のような「会議体」を設定します。
計画通りに進んでいるのか、進んでいないのであればなぜ進んでいないのかを、タイムリーに把握していきます。
これによって、計画未達成に対する対応策を早期に検討することができます。
中期経営計画に魂を入れられるかどうかは、ひとえに中期経営計画策定後のモニタリング体制(進捗管理体制)にかかっているといっても過言ではありません。
この体制を維持するためには、抵抗勢力があろうとも、最後までやり抜く経営者の強い決意が必須です。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役会長
- 公認会計士・税理士 林 公一
- 1987年 横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継や後継者・幹部社員育成のサポートに注力。
- 林公一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。