2023年秋から、我が国において大きな注目を集めたインボイス制度が始動しました。
この動きに並行して進められていた、デジタルインボイスの社会実装に向けた取組みが、ここにきて進展を見せています。
デジタルインボイスの社会実装に向けた取組み
デジタルインボイス対応済サービスの増加
デジタルインボイス推進協議会のWebにて対応済サービスの一覧が案内されています。
まだ数は少ないですが、今後増加していくものと思われます。
デジタルインボイスの実証実験
1月25日の報道によれば、全国で初めて、北九州市はデジタル庁と協力し、デジタルインボイスの標準規格「Peppol(ペポル)」の実証実験を開始しました。
北九州市のリリースによると、この実験は次の点に焦点を当てています。
・デジタルインボイスによる受信で、審査や支払いプロセスの自動化
この実験は、デジタルインボイスの有効性と効率性を検証し、将来のさらなる展開に向けて、他の自治体や企業にとっても重要な参考事例となることでしょう。
デジタルインボイスとは?
改めてこれまでの経緯を振り返ります。
- 2023年10月からインボイス制度がスタートする予定。しかし、このままでは業務が煩雑化してしまう懸念。
- そこで、ボーンデジタル研究会が2020年6月25日に提言を発表。提言の中で、短期的に取り組むべき領域として、電子インボイスの仕組みの構築と言及。
- ボーンデジタル研究会は実現に向け、下部組織としてデジタルインボイス推進協議会(以下EIPA)を立ち上げ。EIPAは2020年12月15日、電子インボイスの標準規格にPeppol(ペポル)を採用すると発表。
内閣官房IT総合戦略室やEIPAは、2021年6月末を目途に日本版Peppolの仕様ver.1を策定し、2022年秋からシステムの運用を開始するスケジュール案を2020年12月に公表。 - EIPAは2021年6月28日、国際規格と日本の法令・商習慣とのギャップを分析し、課題や今後の方向性をとりまとめた資料「日本版Peppol実現に向けた業務要件」を政府へ提出。
日本が政府調達を決定したこのPeppol(ペポル)ですが、ヨーロッパをはじめアメリカ、オーストラリア、東南アジアではシンガポールで既に採用されています。
今回デジタル庁が主導して推進しているPeppol(ペポル)をベースとしたインボイスのデジタル化は、標準化・構造化されたデータのやり取りができる点に特徴があります。
具体的には、データの標準化・構造化により、請求データ・全銀EDI・クラウド会計のデータを一気通貫させることで、請求~決済~消込~記帳の業務プロセスの自動化の実現を狙っています。
目指している方向性は、電子化ではなくデジタル化であり、局所的な変革ではなくプロセス全域的な変革なのです。
冒頭の北九州市の実証実験は、まさに一気通貫のプロセス変革の有効性・効率性を検証するための実験であると言えます。
さいごに
会計・税務は制度対応の側面が強いため、今後の制度改正や方向性を知っておくことは、次の一手を考える上で非常に重要です。
特にトレンドとして、デジタライゼーション(※)の実現が各社の課題となっています。
※参考:過去記事 中小企業経営を「ハック」する~最先端から考える中小企業のIT戦略(3)
デジタル変革のステップ(デジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーション)について説明しています。
デジタルインボイスは、制度設計からデジタライゼーションが意識されているため、これまでの文脈を理解した上で実装できれば、大きなベネフィットに繋がるものと考えます。
全ての事業者に関係するため、今後もこちらの動向はご注目下さい。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井 悟史
- 慶應義塾大学経済学部卒。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。
酒井悟史の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。