今、働く環境が大きく変わろうとしています。
先日、残業規制、同一労働同一賃金、脱時間給制度を3本柱とする働き方改革関連法が、様々な議論の余地を残しつつ成立しました。
法律制定の背景には、労働力人口が減る中、一人ひとりの生産性を高めていく必要がある、ということがあります。
法律成立まで3年超かかりましたが、日本における労働人口の減少は何年も前から予測されていました。
著名な経営学者ピーター・ドラッカーは、「すでに起こった未来」という表現で、人口、社会、政治、経済、産業、経営、文化、知識、意識の変化が、直ちにではないが、次の大きな変化をもたらす、ことを指摘しています。
筆者は、この働き方に関する議論に出くわすたび、「すでに起こった未来」という言葉を思い起こします。
今回はこの議論の中でたびたび登場するキーワード、「生産性」について取り上げたいと思います。
生産性とは、
生産性=産出(Output)÷投入(Input)
で表現される概念です。
投入した経営資源に対する産出の割合が大きいほど、生産性が高い、ということになります。
“労働”生産性とは「労働の成果」を「労働量」で割ったもので、
「労働者1人あたりが生み出す成果(一人当たり付加価値)」「労働者が1時間で生み出す成果(人時(にんじ)生産性)」「付加価値/人件費」等の指標で表すことができます。
生産性が高ければ、利益を生み出しやすいので、社員への報酬を上げたり、設備や人への投資に回したりする余裕もできます。
良い循環を築きやすくなります。
一方、生産性が低いと、生産性の高い企業と同レベルの付加価値を確保するために、投入する労働量を増やすしかありません。
社員を増やす、長時間の労働で人件費が増える、その結果利益は上がらない、という悪循環に陥ります。
生産性は、企業や産業を分析するのに、重要な指標です。
さて、今回の法律が施行されると、労働人口が減少し、容易に働き手を確保できない中で、残業によって挽回する、という方策も取れなくなります。
こうしたことから、昨今、単純な作業は機械にまかせるために、定型の事務作業を自動化するソフト「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」を導入するなど、業務効率化に取り組む会社が増えています。
確かに、機械化するほど大量の単純作業がない中小企業にとっても、RPA導入による業務効率化は有効です。
また、社員には自分の業務に無駄があることは中々自覚できないので、業務を第三者がチェックし、価値を生まない時間がどれほどあるか、
定期的に確認するのも良いと思います。
こうした業務効率化の取り組みは、分母である労働投入量を小さくするためのアプローチですが、生産性の向上という意味では、一時的な改善効果しか望めないのではないかと考えています。
例えば、この20年ほど、ITの導入が進み、昔よりはるかに効率的に仕事が進められる環境になりました。
しかし、それによって生産性が向上したという実感はないという方が多いのではないでしょうか。
業務を効率化すれば生産性が高まるのは事実です。
しかし、競争によって付加価値が年々減少していくと、生産性の定義式の分子となるアウトプット(付加価値)が低下していきます。
生産性を高める方法には、分子となる産出(付加価値)を高める、というもう一つのアプローチが欠かせないことを忘れてはなりません。
残念ながら、まだまだこの付加価値の創造活動が足りていない、というのがコンサルティングの現場での感想です。
ドラッカーは、「すでに起こった未来」は体系的に探すことができ、また未来を創りだすことも可能だ、といっています。
働き方改革への対応にのみフォーカスするのではなく、こうした中長期の環境の変化に対応できるように、新しい価値の創造を実現する計画的な経営に取り組む重要性を是非、認識して頂きたいと思います。
時間がかかりますが、新しい価値の創造という取り組みによってこそ、生産性を長期的に維持、向上させていくことが可能なのです。
アタックスでは、新しい価値の創造の取り組みを「中期経営計画」の策定と実行支援によって支援しています。
社員を単純な作業や無駄な残業から解き放ち、新しい価値の創造にどう向かわせるのか、経営者の手腕がますます問われています。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 川合 和人
- 1997年 南山大学卒。MBA。中堅・ベンチャー企業の業績管理制度構築や業務改善、経営計画策定、事業再構築等のコンサルティング業務に従事。幅広い分野で経営者、経理責任者の参謀役として活躍中。
- 川合 和人の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。