2021年度の終わり、3月に、経済産業省・中小企業庁より中小企業活性化パッケージが公表されました。その内容要旨は以下の二つです。
Ⅰ.中小企業に対するコロナ関連資金繰り支援
Ⅱ.中小企業に対するフェーズ毎の総合的な支援環境整備
Ⅰの支援政策に関しては、“足元での”“当面の”という時限的なニュアンスの修飾語を並べている一方で、Ⅱでは、コロナ含めた諸般の要因によるダメージ度合に応じた支援環境を整備しているところが特徴です。そこで、今回はⅡについて詳しく解説します。
「中小企業に対するフェーズ毎の総合的な支援環境整備」とは
「Ⅱ.中小企業に対するフェーズ毎の総合的な支援環境整備」の支援政策では、
- 改善フェーズ企業には伴走支援
- 再生フェーズ企業には再生ファンド整備や事業再構築補助金等による資金支援や中小企業の事業再生等ガイドライン(以下、中小GL)の整備適用
- 再チャレンジ(廃業)のフェーズ企業には経営者保証に関するガイドライン(以下、経営者保証GL)の適用明確化等の経営者個人に対する支援
と、個別企業の状況を斟酌したメニューづくりをしています。
「中小GL」とは、再生・廃業フェーズの中小企業と関係金融機関が夫々担う役割と、債務整理の手続き準則を定めたものです。これは今回の政策パッケージにおける新設の制度です。
「経営者保証ガイドライン」とは?
「経営者保証GL」は、個別の銀行融資局面や事業承継・廃業が生じたケースにおける金融機関借入金に対する経営者の個人保証の取り扱いの指針を定めたものです。
「経営者保証GL」は、中小企業、金融機関、経営者共通の自主的なルールとして2014年よ適用が開始されたものですが、適用開始後、その利用実績が多くなってきました。
また、今回の政策パッケージでは、廃業局面での経営者保証の取り扱いがより明確化されました。
これらの指針の新設・適用明確化をみるに、金融面ではコロナで肥大化した中小企業融資の出口設計をすべき、中小企業政策面では事業承継やМ&Aも含めた事業再生を通じた「日本の中小企業の新陳代謝」を促進すべき、との政策目的を読み取ることができます。
これが「活性化」というキーワードに集約されていると感じます。
「経営者保証ガイドライン」が利用されるケース
このうち、経営者個人の観点からは「経営者保証GL」は、上記の政策目的に果たす役割が大きいと考えます。
では、具体的に経営者保証GLとはどのようなケースで利用されるのでしょうか?
経営者保証GLでは、個人保証に関わる三つのシチュエーションにおける考え方、指針をまとめています。
会社が銀行から借入をする場合
一つ目は、会社が銀行から借入をする場合です。
この場合、経営者保証GLのもと、金融機関は経営者の個人保証を求めないことを検討する必要があります。
事業承継がなされる場合
二つ目は、事業承継がなされる場合です。
事業承継に際しては、前経営者の個人保証の解除と半自動的な後継者の個人保証が一般的でした。
これだと後継者のリスクが高く、事業承継が進まない懸念があります。
経営者保証GLでは、後継者の個人保証を求めない金融機関の対応検討を指針として示しています。
会社の債務整理がなされる場合
三つ目は、会社の債務整理がなされる場合です。
例えば、第三者のスポンサーに事業譲渡ができ、また、事業譲渡後に残ってしまう銀行借入金について、金融機関との交渉が上手くいき、債務免除が認められるようなケースです。
このケースでは、会社の銀行借入金は免除されますが、経営者個人へ保証に関する手当がなければ、結果、会社や事業は助かったが、経営者個人は破産するしかないこととなってしまいます。
経営者保証GLでは、上記のようなケースでの、経営者個人保証の免除の考え方・手続きを示しています。
「経営者保証ガイドライン」の枠組みを利用した事例
事業再生を中心に財務コンサルを生業としている筆者が実務で出会うケースは、事業承継・債務整理の局面です。
先日も、とある製造業を営むクライアントのプロジェクトで、金融スポンサーへの事業譲渡と数億円の残債務免除の計画策定をお手伝いさせていただきました。
このプロジェクトでは、経営者保証GLの枠組みを利用し、中小企業活性化支援協議会や弁護士も含めた支援のもと、経営者個人資産からの一定額の保証債務(見合い)の返済を要件として、その他大部分の保証債務を免除する計画となりました。
このプロジェクトにおける経営者はまだ若く、借入金が多額となった責任をそれほど問われなかったというケースでしたが、相応の金融資産と金融機関に担保提供していたご自宅を実質的に手元に残せた形となりました。
当然、その経営者がその後破産することはなく、また、信用情報登録機関に保証債務免除の情報が登録されることもありません。
上記のような経営者保証GLの活用実績は、こちらで金融庁が公表しています。
活用に際し、満たすべき「要件」
既述のように経営者保証GLは、経営者からすれば、個人保証がとられない、ケースによっては解除や免除してもらえる指針ですので、その活用はメリットがありますが、一方で、活用に際しては、一定の合理的な要件を満たしていく必要があります。
この要件は個人保証に関するシチュエーションにより様々です。
必須条件としては、
・金融機関に対して会社の財務情報が 適切継続的に開示されていること
です。
金融機関から会社が借入をして、その借入を経営者が私的に流用する可能性があるケースでは個人保証を求められるのは当然でしょう。
また、個人保証無しで金融機関から借り入れをする場合には、会社の収益性が問われますし、保証債務の免除を求めるケースでは、個人資産・負債全ての情報開示と個人資産からの一定の返済を求められます。
おわりに
弊社では、事業承継や事業再生の局面において、ご相談される会社・経営者に関わる経営者保証GLの要件適用の検討や必要な支援機関のご紹介等をしております。気に留められたのであれば是非ご相談を頂ければ幸いと思います。
経営者個人のご資産や承継・再生後の経営者の人生設計、ご家族・ご親族に対する考え方等のプライベートかつセンシティブなお話もあろうかと思いますが、社長の最良の相談相手である私共にお聞かせください。
株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングは、ファイブステップ(調査分析→問題発見→課題整理→改革提案→実行支援)コンサルとして中小企業の経営改善に関する様々なお悩みに対し、現状分析から課題解決のためのご支援を行っています。こちらからお気軽にご相談ください。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 公認会計士 森下 大
- 1999年 早稲田大学卒。中堅中小企業の事業再生・買収のアドバイザーとして、財務・事業デューデリジェンス、経営計画策定支援を中心としたコンサルティング業務、並びに、計画経営推進のための経営顧問業務に従事。公認会計士としての知識・経験を活かし、社長の良き相談相手として伴走型の支援を行うことで定評がある。
- 森下大の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。