未だ収束を見せない新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、企業を取り巻く環境の見通しを立てづらい「不確実性」を実感する機会は多いのではないでしょうか。
また、経済環境の悪化、不安定な世界情勢の下、新型コロナウイルス感染の収束後も不確実性が高まった状態は続くものと考えられます。
このような環境下において、企業経営に求められる姿勢とはどのようなものでしょうか?
経済産業省が発行している2020年版のものづくり白書には、主たるメッセージの一つとして次が掲げられています。
環境や状況が予測困難なほど激しく変化する中では、企業には、その変化に対応するために自己を変革していく能力が最も重要なものとなる。
そのような能力を、「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」という。
それでは、企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)とはどのようなものでしょうか?
企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)とは
ダイナミック・ケイパビリティ論は、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱された経営戦略論です。
これが提唱された背景としては次の通りです。
企業の競争力の源泉は、自社の強みである固有の資源を利用する能力であるという見解が広まる一方、それもまた、環境や状況が変われば不適合なものとなり、企業の硬直性を招き、かえって企業の弱みへと転じかねない状況が見受けられました。
では、どうすれば変化する環境や状況の中で、持続的に競争力を維持できるのか。
このような問題意識のもと提唱されたのが企業変革力(ダイナミック・ケイバリティ)であり、
「環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力」
と定義づけられています。
企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)は次の3つに分けられます。
脅威や危機を感知する能力
(2)捕捉(シージング)
機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
(3)変容(トランスフォーミング)
競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力
つまり、「脅威や危機を感知し、必要なタイミングで柔軟に組織全体を再構築する力」
がある状態が企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)があると考えられます。
デジタル技術の活用
また、企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)を増幅するにはデジタル技術が有用であると述べられています。
すなわち、データ収集・分析により、
「環境や状況変化を『感知』するという起点を経て、顧客ニーズの機会を捉える『捕捉』を行い、そして競争力を持続的なものにするための『変容』へ繋げること」
が可能であるとティース氏は説いているのです。
一方、データ収集・分析をただ闇雲に行うことでは効果は得られません。
「ビッグデータ」や「データサイエンティスト」という言葉も浸透してきましたが、導入している現場においても、業務の8割~9割がそのデータの整理・加工に当てられていることが多いのが実状です。
これではデータを有効に活用できません。
まず、効率的、かつ効果的なデータ収集・分析を行える土台として、組織全体の業務フローを俯瞰的に見て、データを適切に集めることができるように見直す必要があります。
この俯瞰的にということがポイントでもあり、これは既存の組織体制を見直す必要も生じ得る、ということを指します。
このように、ITに関する決定は、業務改善だけではなく、「経営戦略」にかかる重要な意思決定でもあるのです。
さらに、「使える」データ分析を行えるようにするためには、データ分析を行う者と実際の現場との相互理解が重要となります。
1990年代、いち早くデータ分析に着手し活用してきた大阪ガス株式会社では、データ分析を行う専門部署が立ち上げられましたが、実際に業務を行う各部署への訪問・現場とのやり取りを繰り返すことでノウハウを蓄積し、一方、現場においても、データ活用の意味を学習することによって、分析や改善提案ができる文化が醸成されていきました。
ITを取り巻く環境の変化は著しく、日常生活においても「オンライン」は身近なものとなり、意識して選択する対象は「オフライン」となってきています。
また、このコロナ禍においては、リアルでの接点を減らさざるを得ず、顧客との接点はオンラインを前提と考える必要があり、今後、リアルとオンラインの融合が加速することも考えられるでしょう。
それもまた不確実性の一つですが、まずは、自社の強みを定義した上で、企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)を増幅させ、組織を自ら変えていくことが必要であると考えます。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 取締役 公認会計士 新川 真代
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングにて中堅中小企業向けに企業再生・経営支援等の経営コンサルティングを従事。現在は、株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングにて会計専門家としての知見・経験を生かしながら、会計専門家の業務効率化・中堅中小企業の経営に資する情報提供のためのシステムを開発・運用に取り組んでいる。
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