不確実な時代に臨機応変に備える

経営

マイダン革命に端を発した2014年のクリミア危機・ウクライナ東部戦争。この埋み火は8年の時を経て、大火となりました。2月にロシアがウクライナ北部・東部・南部各州に大規模な侵攻をしかけてからの状況は皆さんが良くご存じのとおりです。

“伝統的な戦争にもはや合理性はなく、平和の利益を享受した人類は大規模戦争をおおむね克服した”
“戦争は、仮に起こるにしても進化した技術によってよりスマートでクリーン、かつ短期的なものになる”

というのが、現代に生きる西側世界の人々の世界観となっているように私は思っていました。
ところがウクライナのゼレンスキー大統領のそれまでの楽観を嘲笑うかのように、ロシアは多方面から一斉にウクライナに侵攻しました。また、彼の地で起きている戦闘は第二次世界大戦さながらの戦車戦、報道されているロシア兵の所業はまるで中世のそれのようです。

平和とグローバリゼーション

古代の歴史家トゥキュディデスは、戦争の要因として「利益」「名誉」「恐怖」の3つを挙げました。

この戦争についてのプーチン大統領の動機は決して「利益」などではなく、
・ロシアは旧ソ連圏・スラブ民族・正教の盟主であらねばならないという「名誉」
・“嘘つき”NATOがサンクトペテルブルクの近くまで迫ってくるという「恐怖」
・クリミア危機効果のなくなってきた支持率を大統領選までに上げなくてはという「恐怖」
に駆られてのことではないかと私は想像しています。

結局のところ「平和の利益」が戦争を抑止できるのは、公益を合理的に判断することができる状態の政治家や官僚が統治している国家だけということなのでしょう。

また、クラウゼヴィッツが『戦争論』で述べたように、戦争でいったん発露してしまった人間の暴力性・残虐性は、人類が凄惨な戦争を何度経験しようがテクノロジーがいかに発展しようが、本質的には何も変わらなかったということでしょう。ロボット同士が戦って戦争の決着がつくというのは幻想でした。

平和なときは実感することなく、もはやそれが常態であるかのように考えていましたが、私たちは「長い平和」と「グローバリゼーション」による大きな利益を享受してきたのです。
時代はいったん、逆戻りをすることになるのかも知れません。

世界的なサプライチェーンの混乱

ロシアとウクライナは穀物、農業資源、鉱物資源、化石燃料の宝庫です。二国はこの数十年の間に資源の供給者として世界的なサプライチェーンに組み込まれていたのです。

しかし、侵略を受けているウクライナの国土の一部は焦土となり、多くのインフラが破壊され、港湾は黒海艦隊と敷設された機雷に占拠されています。ロシアによる東部・南部の占領あるいは併合は長期化・常態化する可能性すらあります。

一方、侵攻したロシアには、政体の大きな変化などがない限り未曾有の経済制裁が続き、サプライチェーンから外された状態が定着していくことになるでしょう。

米中対立・コロナ禍・ウクライナ侵攻と続く世界のサプライチェーンの大混乱が、巡りめぐってこの5月に愛知県の三河地方で中小企業の操業を5日も6日も止めています。いつになったら平常化するかの見通しすら立ちません。

グローバリゼーションによって世界は精緻につながっており、世界各地で起きているこれらのことは、この数十年に築かれたビジネスの前提を大きく変えることにつながるのかも知れません。

西側諸国の不安要素

ウクライナを支えている西側諸国にも不安要素が充満しています。

フランスのマクロン大統領は4月の選挙で、NATOに批判的なルペン候補から前回選挙より大きく差を詰められました。

ドイツのシュルツ首相率いる与党は5月の州議会選で連敗し、オーストラリア総選挙でも与党が敗北し、政権交代が起きました。

アメリカのバイデン大統領の支持率も低位の水準下でさらに低下しており、11月の中間選挙が不安視されています。

自由・民主を標榜する私たちの世界すら脆弱さを内包しており、その土台がどのように変化していくか、見通しが立ちづらいように思います。

為替・金利は先行き不透明

金融面でも潮目が大きく変わりつつあります。

リーマンショック以降、世界的に大規模金融緩和政策が実行されました。世界の債務とマネー量はこの十数年で大きく増大し、その後の経済回復・成長を演出した一因となってきたのです。

しかし、足許のインフレ進行に対応するため、西側各国は金融引き締めに果敢に舵を切りつつあります。緩和マネーは逆回転し始めていくことでしょう。

日本国内に目を転じれば、大掛かりな質・量両面の金融緩和政策を9年も続けていますが、インフレターゲティングの成果は明確に実感できないまま「悪いインフレ」の傾向が出始めています。

財政は変わらず新型コロナの救済措置や物価対策として大盤振る舞いの支出を組んでおり、国の債務は1000兆円を超えました。

効果的な対策の見えない日本において為替や金利がこの先、チャートの「常識的」なレンジで振幅を繰り返すとは言えなくなっているように思います。

中小企業が取り組むべき施策

取り留めのないことを長々と書きました。
現在の私たちのビジネスの常識は、たかだかこの数十年の間に形成されたものが多くあるということです。

この「常識」に沿って政治や経済の先行きに皆揃って一定水準の期待値を置く、ということが今は難しくなっているように思います。

中長期の見通しが立ちづらいときにはやはり、防衛的な思考を強く持つべきだと私は考えます。

中小企業1社1社がコントロールできる要素にはもちろん限りがありますが、不確実な時代には臨機応変に対応していくことが大切です。

シンプルですが、次に掲げるポイントを念頭におかれて日々の経営に当たられてはいかがでしょうか

✔ 外部から提案される「案件」は繰り返し吟味する
✔ 投資は厳選して実行する
✔ 財務レバレッジは絶対に上げない
✔ 調達余力は手厚く確保する
✔ 規模の成長よりも、質の成長にとことん手間暇をかける

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 廣瀬 明
1968年生まれ。企業再生、財務・事業デューデリジェンス業務、M&A、株式公開のサポート等に従事。中堅中小企業への豊富な支援業務を通じて培った知識と経験を活かし、現在大阪事務所のプロジェクトマネージャーとして活躍中。
廣瀬明の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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