中堅中小企業のニッチトップ戦略である「池クジラ戦略」。
今回は、中小企業の経営者に知っていただきたいニッチトップ戦略の一つ「池クジラ戦略」について解説します。自社の中長期戦略計画を検討する際に役立てて頂ければと思います。
1.どこで戦うか:「池」を再設計する
昨今、どのような業界でも、ビジネス環境は儲からない構造になってきています。
業界構造分析フレームワークの5フォースで考えてみると、
以下のように、いつかは必ず価格競争に巻き込まれます。
仕入先:「値引き交渉してくるなら、売ってあげないよ!」
競合他社:「シェアを奪え!」
新規参入者:「この業界は儲かりそうだ!」
代替品業者:「いまのモノより、もっといいモノあるよ!」
池クジラ戦略の本質は、お客様に「WTP(Willingness To Payの略。お客様が喜んでお金を払ってくれる価値)」を生み出し、価格競争することなく、アイデア競争で勝ち残ることと考えます。
そこで、価値×価格マップでホワイト・スペース(自社がクジラになることができる池)を再設計する必要があります。
再設計のポイントは、業界常識的な市場から、次の3通りのいずれかのズラシ方で活路を見い出します。
再設計のポイント
(1)価値は同じでも、価格が安い(価値×価格マップの左へズラス)
例えば、オーダーシャツと同等の品質を既製品レベルの価格で提供しているビジネスシャツメーカーが挙げられます。
(2)価格が同じでも、価値が高い(価値×価格マップの上へズラス)
一人親方の販売代理店が多いレーザー機器業界において、複数のグローバル・レーザー機器メーカーと取引できる購買代理店になることで、顧客ニーズ対応力・提案力を格段に高めたレーザー機器商社が好例です。
(3)そもそも世の中になかった価値を提供する(価値×価格マップの空白地帯へズラス)
高齢者・障害者向けのニーズを汲み取ったケアシューズは少なく、あっても非常に高価であった靴業界で、高齢者ニーズに合致したケアシューズを適正価格で提供している靴メーカーが一例です。
2.どのような価値提供で戦うか:「提供価値」を再設計し、創り込む
次に、顧客にどのような価値を提供するかを再設計します。
価値創造の型として、3つあります。
価値創造の型
(1)顧客密着型
顧客の痒いところに手が届く商品・サービスで感動させ、価格が高くても納得させる戦い方です。イメージが伝わりやすいので、寿司屋に例えると、行きつけの近所のお寿司屋です。カウンターに座ったら、大将が今日の体調を察して、ネタからその出す順番まで、何も話さずとも出てくるという、顧客に徹底的に密着した価値です。
(2)オペレーショナル・エクセレンス型
今までの世の中にもあったが、「こんなにいいものがこんなに安く、早く」手に入ることに感動させる戦い方です。回転寿司のイメージです。
(3)新商品開発型
今までの世の中になかった商品・サービス価値に感動して、価格が高くても納得させる戦い方です。銀座の高級寿司屋のイメージです。この店の大将が握るマグロのづけは、よその店では食べられない達人の域のお寿司という、他店では得られない価値です。
価値創造の型を戦略の主軸として一つだけ選択し、徹底的に創り込み、競合との圧倒的な差異を再構築します。
3.そのための武器は何か:「独自コア能力」を獲得し、磨き込む
さらに、戦略の主軸として選択した価値を再創造し、提供するための武器(独自コア能力)を社内外から獲得し、磨き込みます。その獲得方法は4通りあります。
独自コア能力の獲得方法
(1)ポジショニング・アプローチ
市場に現れたニーズを問題解決する「収益機会」に、誰よりも早く、「先行者」としての位置取りを獲得するアプローチです。その際のカギは、情報収集・分析力です。
(2)資源アプローチ
市場ニーズの問題解決に「必要不可欠な経営資源」を直接獲得するアプローチです。
カギは資金力になります。
(3)学習アプローチ
問題解決に「必要不可欠な経営資源」をお客様の胸を借りて学習して獲得するアプローチです。継続力がカギになります。
(4)連携アプローチ
問題解決に「必要不可欠な経営資源」を、競合も含め、他企業と連携することで獲得するアプローチです。カギは信用力です。
例えば、価値創造の型の「オペレーショナル・エクセレンス型」で、商品納品リードタイムが業界常識では1ヶ月以上要するところ、自社の商品なら「明日来る」というような、競合と比してダントツに高い価値の再創造・提供のために、上記の4つの独自コア能力獲得方法を組み合わせ、駆使して、磨き上げます。
4.最後に
ニッチトップ戦略である「池クジラ戦略」とは、上記の3つの戦略論点「池」「提供価値」「独自コア能力」を念頭に置きながら、自社の現状を外部・内部環境分析等を通じて客観視し、クロスSWOT分析等で戦略の打ち手のアイデアを練りだし、最適な戦略を見極めることです。
中長期戦略計画の策定にあたり、自社が「どこの池で、どのような独自コア能力を武器に、ダントツ顧客価値を提供して、中長期的に勝ち残るか」を検討される際の一助になれば幸いです。
参考文献:
1.青島 矢一、加藤 俊彦 著「競争戦略論」
2.M.トレーシー、 F.ウィアセーマ 著「ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング 」
筆者紹介
- アタックスグループ アタックス社長塾 主席コンサルタント 西公通
- 1992年 一橋大学卒。IBMビジネスコンサルティングサービス、国内外戦略系コンサルティング会社にて成長戦略、企業変革、新規事業開発支援、博報堂ブランドコンサルティングにてブランド戦略に従事。アタックス参画後は、中堅中小企業の経営サイクル改善、事業利益モデル改革支援業務の他、現在は、アタックス社長塾プロデューサーとして活躍中。
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