2023年10月から適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入されることが決まっていますが、この新制度導入に先立ち、いま官民連携でインボイスを電子化する動きがあることをご存知でしょうか。
インボイス制度の概要
前提知識として、消費税の仕組みを知っておく必要があります。
消費税の課税事業者は、売上等に係る預かった消費税から、仕入等に係る支払った消費税を差し引いた金額を国に納付します。
この支払った消費税を預かった消費税から控除することを「仕入税額控除」といいますが、インボイス制度はここに影響します。
インボイスとは、適格請求書等(=登録された課税事業者のみ発行できる)をいいます。
インボイス制度の導入後は、先程の仕入税額控除の要件が、この適格請求書等を受領した時に限られるようになります。
インボイス制度導入後の懸念
事業者の負担が増えることに尽きます。
このコロナ禍において、紙を前提とした業務フローの限界を皆様実感されているかと思います。
その上で制度導入後は、記載様式の変更や発行者の登録確認が必要となるため、請求書の発行者・受領者の双方にとって、これまで以上に業務が煩雑化する懸念があります。
「社会的システム・デジタル化研究会」が提言を発表
話は逸れますが、昨年の2020年6月25日に民間ベンダー5社が中心となって設立された研究会から「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」が発表されました。
提言は、背景や課題認識の整理に始まり、
- 情報通信技術が急速に発展している一方で、日本における現状の社会的システムの多くは、戦後に紙での処理を前提として構築されたものの一部の電子化に留まっている。
- デジタル技術を浸透させることで社会全体としての効率を抜本的に向上させ、社会的コストの最小化を図るためには、今ある業務プロセスの電子化を図るだけでは不十分であり、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化が必要である。
短期・中長期において取り組むべき領域での方向性についても言及しています。
- 短期的に取り組むべき領域
インボイス義務化に向けた標準化された電子インボイスの仕組みの確立、さらにインボイス以外も含めた商取引全体のデジタル化- 中長期的に取り組むべき領域
確定申告制度、年末調整制度、社会保険の各種制度等
さらに、末尾には今後の具体的な進め方について記載しています。
短期的に取り組むべき領域である電子インボイスの仕組み構築については、本研究会の下部組織として、電子インボイス推進協議会を立ち上げ、まずは本年(2020 年)中を目途に電子インボイスの標準規格について結論を得、2021年には具体的なシステムの開発に着手できるようにすることを目指す。
なお、昨年末12月15日において、電子インボイス推進協議会から、電子インボイスの標準規格に「PEPPOL」(ペポル)を採用するとの発表がありました。
現状、提言に記載されているスケジュール通りに進捗しているようです。
平井デジタル改革相は会見で、「2021年にデジタル庁ができてから最初の仕事になるだろう。フラッグシッププロジェクトとしてやらせていただく。」と官民連携による推進を約束しています。
電子インボイス普及によるベネフィット
話を戻します。
先述の通り、紙を前提とした業務フローのままでは、インボイス制度の導入により業務が煩雑化し、事業者の負担が増えてしまうことが懸念でした。
そこで、円滑な制度導入を実現するために、社会的システム・デジタル化研究会は、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化に取り組むべきであると考え、国際規格に準拠した電子インボイスの導入を官民連携で普及させていくことを決めました。
電子インボイスであれば、請求以降をデジタルで一気通貫により処理をさせる(請求データをクラウド会計システムや銀行データに連携し、自動化させる)ことで、
- 発行者側での請求書発行業務~入金消込業務
- 受領者側での請求書管理業務~支払業務
までを大幅に効率化することが可能になります。
つまり、
(1)法令改正に最低限対応することで終わらせるだけでなく、これを機会と捉え、
(2)業務フローをデジタルを前提として見直し、大幅な効率化の実現まで射程に入れて電子インボイスを考える必要があります。
目指すべきはデジタイゼーションではなくデジタライゼーション
以前の記事で、デジタル変革のステップについて説明しています。
再掲になりますが、局所的なデジタル化が「デジタイゼーション」、プロセスの全域的なデジタル化が「デジタライゼーション」です。
単に紙を電子化するだけでは、それは局所的なデジタル化に過ぎず、改革としてはそれだけでは不十分です。
発生源からデジタルで収集し、リアルタイム(もしくはリアルタイムに近い形)で後工程にデータを引き渡し、一貫してデジタルとして取り扱う必要があります。
つまり、「デジタイゼーション」に留まらず、「デジタライゼーション」の実現を目指すべきということになります。
蛇足ですが、来年2022年から、電子帳簿保存法・スキャナ保存法が改正により緩和される予定です。(令和3年税制改正大綱)
特にスキャナ保存法の緩和は、ペーパーレス化を大きく後押しすることが予想されます。
これまで以上に、クラウド会計システム等に証憑のスキャン画像が蓄積されるようになるでしょう。
この話も本質は同じです。
単に証憑を画像データ化するだけでは、「デジタイゼーション」です。確かにペーパーレス化は推進され、場所の制約からは解放されるでしょう。
他方で、例えばAI-OCR(※)とクラウド会計を組み合わせることで、スキャンデータの収集と後工程の記帳プロセスまで一気通貫でデジタル化できれば、それは「デジタライゼーション」であり、方向性としてどちらを目指すべきかは明らかです。
※AI-OCRとはAI(人工知能)技術を取り入れた光学文字認識機能(OCR)。スキャン画像から、日付・金額・相手先等の文字情報を読み取り、学習を通じて記帳の自動化を支援します。
最後に
会計・税務は制度対応の側面が強いため、今後の制度改正や方向性を知っておくことは、次の一手を考える上で非常に重要です。
特にトレンドとして、デジタライゼーションの実現が各社の課題となっています。
電子インボイスは、制度設計からデジタライゼーションが意識されているため、これまでの文脈を理解した上で実装できれば、大きなベネフィットに繋がるものと考えます。
全ての事業者に関係するため、今後もこちらの動向は是非ご注目下さい。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井 悟史
- 慶應義塾大学経済学部卒。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。
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