株式公開の損得勘定はこう考える!~2017年の株式公開の現況レポート

経営

今年1月、あずさ監査法人のHPに、昨年のIPOの動向調査の結果が掲載されました。
「2017年のIPO動向について」

私は、毎年この数値を見ています。今年の動向の気になるところをまとめてみました。

2017年の株式公開件数は90件。2016年の83件より7件ほど増えました。 しかし、案件が今後増加傾向にあるかといえば、そうではないようです。レポートによると、今後しばらくは、85社から95社程度が見込まれるということです。200社近い公開ラッシュの時代に比べるとほぼ半数の推移です。

これは、以前のメルマガ(※)でお伝えしたように、監査法人が業務過多のため、新規案件を受けにくくなっていることが一因です。 また証券会社や取引所の審査部門もフル回転の状況であり、公開希望の会社が増えたとしても、審査を通る企業が増えないのが現実のようです。

会社の規模感でみると、2017年の新規公開企業の53%が経常利益は5億円以下。同利益を10億円まで含めると76%を占めます。株式公開を果たす企業の約4分の3が、経常利益10億円以下です。この規模感なら、中堅中小企業でも株式公開を視野に入れることは、夢物語ではないと言えます。

一方、どの程度の資金調達ができたかを見てみると、新規公開企業の51%が、5億円以下の調達額。10億円までいれると、その割合は76%になります。すなわち、資金調達をした4分の3の企業は、10億円以下だったということです。

問題は、この金額の調達を株式公開で行うか否か、ということです。 実際に公開を決断すると、会計監査や管理業務強化のための人材採用等いろいろな追加コストがかかります。 これらのコストは総額で億円単位になります。

さらに、このレポートにも記載されているように、これらのコストは増加傾向にあります。 仮に、5億円調達できたとしても、実質の調達金額はここから上記のような株式公開特有のコストが億円単位で差し引かれます。資金調達という面では、あまり大きな意味合いがないという傾向が続いているようです。

では、中堅中小企業が株式公開をする意味はないのでしょうか?

私は必ずしもそうは思いません。 なぜならば、株式公開の最大のメリットは、厳しい公開審査を勝ち残ることができる、適切な組織運営がされている優良企業というブランド形成にあると考えているからです。こうしたブランドが確立すれば、会社にとって最も大切な人財採用についても可能性が広がると思いますし、それ以外の付随効果があると考えています。

株式公開は、経営者の憧れであったり、ステータスを感じる面があると思います。しかし、株式公開を考える上では、そのような思いを一旦横に置いて、前述のようなメリット・デメリットを充分に検討した上で判断するようにしていただきたいと思っています。

アタックスグループは、株式公開特有の論点である資本政策の企画、実行から、実際の管理体制(内部統制の整備、運用までを含む)まで、幅広いサポート体制を構築しています。株式公開を検討されている場合は、気軽に弊グループまでこちらからお問い合わせください。

(※)林公一の過去メルマガ
『上場を希望する企業は、まず、会計監査の受託先の確保を最優先!』

筆者紹介

アタックスグループ 代表パートナー
株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役社長
公認会計士・税理士 林 公一
1987年 横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継や後継者・幹部社員育成のサポートに注力。
林公一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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