2023年は大企業を中心にベースアップに取り組まれた会社が多い年でした。
ただ、経団連の調査によりますと夏季賞与の伸び率は鈍化しているようで、総額人件費の上昇には慎重な判断をしているように感じます。(22年の伸び率は8.77%、23年の伸び率は0.47%)
賃金水準はどの様に決めれば良いか
筆者は人事コンサルタントとして報酬制度も設計するのですが、「ベースアップはどの程度実施すべきか」や「賃金水準はどの様に決めれば良いか」という質問を良くお受けします。
まずお伝えしたいのは、春闘や夏季・冬季賞与など、季節ごとの時事的な報道にあまり左右されず、1年、あるいは中長期的な視点で検討をして欲しいということです。
賞与の計算式は様々ですが、日本のオーソドックスな方法は、基本給×月数というものです。
ベースアップによって大幅に基本給が増え、例年通りの月数が設定されるならばもちろん賞与も大幅に増えるはずです。
今年の夏季賞与の伸び率が鈍化したのは、電力業種の業績が悪く、伸び率どころか▲11.75%と減少していることも要因ではありますが、ベアで増えた人件費を賞与で調整したことも要因と考えられるでしょう。
人件費管理の考え方
人口減少時代において、採用力強化、人材定着は企業にとって極めて重要な課題です。
もちろん筆者も初任給引き上げやベースアップは検討して欲しいと考えています。
ただ刺激的な報道の数字に影響されすぎると過剰な賃上げになり、利益率低下や、赤字転落にもなりかねません。
それを回避するには、損益計算書における人件費のバランスを見ること、つまり総額人件費管理が求められます。
労働分配率
人件費のバランスを見る経営指標として代表的なものは労働分配率です。
付加価値(限界利益)=売上高-外部購入費(主に仕入や外注等の変動費)
自社の力によって積み上げられた付加価値の内、人件費に分配されている割合を見るのが労働分配率です。
また、人件費の中には、社員へ支給する賃金だけではなく、採用や教育の費用に加え、社会保険の会社負担分なども含まれます。
労働分配率は、人に関する費用を管理するという視点で大変使い勝手が良い指標です。
そして、統計データを取ることも容易で、人件費の予算管理や、人件費の増減が損益に与える影響のシミュレーションなど、様々な分析に応用できる優れものです。
もちろん、会社によって人件費のあり方は異なり、同業種平均やベンチマーク先企業と比較して、単純に上だとか、下だとかを決めることはできません。
ただ、自社が理想とする人件費のあり方として、労働分配率を用いて目標化・基準化することは可能であり、経営判断の羅針盤となってくれます。
現在、労働分配率目標を設定されていないのであれば、是非ご検討ください。
人材生産性
そして、労働分配率が優秀な指標であるもう一つの視点は、計算式を入れ替えると別の名称になり、違った使い方ができることです。
労働分配率の計算式の分子と分母を逆にしただけですが、今度は割合ではなく倍数となり、かけた人件費の何倍の付加価値を生み出したかという見え方に変わります。
人件費予算を考える際は労働分配率という“率”の視点は使い勝手が良いでしょう。
但し、利益を増やそうと考えたとき、「人件費への配分を減らそう」との意識が生まれやすいデメリットもあります。
「付加価値額を増やす」ことが、利益も人件費も増やす方法なのですが、この視点が労働分配率では生まれにくいのです。
しかし、人材生産性は違います。
かかっている人件費の倍数という指標なので、「現状は2倍だけど、お客様への価値提供力を上げて3倍を目指そう」という発想を生みやすいのです。
また、労働分配率は全社的な集計数値のイメージから離れられませんが、人材生産性は個人的な視点で下記のように付加価値目標を概算することが可能であり、当事者意識も生みやすくなります。
※年収に掛けている「1.3」は、社会保険の会社負担分や教育費用などを年収から概算するための数値です。必ず1.3であることは求められません。会社ごとに考えて頂いて結構です。
おわりに
もちろん、コンプライアンスを遵守せず、あるいは詐欺的な手法で売上、付加価値を増やしてはいけません。
しかし、売上、付加価値が増えない限り、中長期的かつ安定的な人件費増加は望めません。
労働分配率、人材生産性の指標を上手に使いこなし、社員の方々のやる気向上に動機づけて頂きたいと思います。
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筆者紹介
- 株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング 取締役副社長 永田 健二
- 1999年 静岡大学卒。中期経営計画策定支援、組織風土分析支援、人事制度構築支援、人事制度運用支援などに従事。新入社員研修、中堅社員研修、管理者研修、各種個別研修など研修講師としても活躍中。
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