M&Aで発生する競業避止義務とは?~売り手・買い手の留意点

経営

筆者はM&Aのサポートをさせていただくことが多いのですが、今回もM&Aにおいて論点となる競業避止義務について、ご紹介したいと思います。

競業避止義務とは

そもそも競業避止義務という言葉をご存じでしょうか。

あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、M&Aにおける専門用語ではありませんし、内容を聞いてみると、そういうことか、と思われるのではないでしょうか。

競業避止義務とは、対象となる会社に対して不利益になるような競業行為を禁止するものです。

入社時に就業規則や誓約書に記載されていることもありますが、意識していない人がほとんどではないでしょうか。

たとえば、就業規則であれば、

「従業員は在職中及び退職後〇ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を行うことを禁止する」

というように、サラッと記載されており、入社する時点で競合して会社に不利益を被らせてやろう、なんて考える人はいないため、特に意識しないのだと思います。

最近では副業を認めている企業もありますが、競業避止義務は、おもに独立する場合など退職時に義務が生じることになります。

そのため、職業選択の自由を侵害するのではないかという議論もあるようですが、制限期間や場所的職種的範囲、代償の有無など合理的な範囲において有効とされています。


特にM&Aの場合、対象会社の収益力をベースにM&Aの対価を算出することから、社長やキーパーソンが退職し、収益力に影響を与えるような競業関係となることは制限されても仕方がない面もあるといえるでしょう。

最近は、若い経営者でも第二の人生を考え、会社を売却することが増えてきていますが、こういった競業避止義務のような予期せぬところで買い手ともめることもありえます。

競業関係になりそうなことがM&A後に想定されているのであれば、事前に相談しておくことが、M&A交渉をスムーズに進めることにもつながります。

M&Aで競業避止義務が必要とされる理由

中堅・中小企業の場合、社長個人のリーダーシップやカリスマ性が収益力の源泉となっているケースはよくあることで、そのような社長が退任するだけでも事業性が損なわれ、収益力が維持できなくなるおそれがあります。

そのような社長の退任が前提となるM&Aを行う際には注意が必要となります。

さらに、その退任した社長が競業行為をするようなことになれば、買い手としては売上減少にもつながり企業価値が大きく損なわれることになってしまいます。

買い手としては、収益力を期待してM&Aをしたにもかかわらず、これでは本末転倒です。

買い手側のリスクとは?~例①

意図的に会社に不利益を被らせるつもりはないかもしれませんが、たとえば、病院経営をしていた院長が、跡継ぎがいないため売却して、入院施設がないクリニックの経営をしたいと考えていた場合など、微妙なケースといえます。

患者さんが「あの先生に診てもらいたい」と思うのはよくあることです。

先生に患者がついている場合、病院の近所で新たに開設されてしまうと、病院としては一時的には外来患者数の減少になってしまい、収入減となります。

実際にはほとんど影響しないかもしれませんが、買い手にとってみれば、事業価値を減少させるリスクと捉えられても仕方がないでしょう。

買い手側のリスクとは?~例②

少し競業避止とは異なるかもしれませんが、スタッフを引き抜くことも、収益を維持できなくなる可能性があるため、買い手としては困ることの一つです。

ビジネスの重要なスキルやノウハウ、顧客基盤などは、個人に帰属していることもあり、切り離すことができません。

競業避止条項がM&A契約の障害となることも

そこでM&Aでは株式譲渡契約の1つの条項として、期間や地域、競業の内容などを取り決めることが一般的になされています。

競業避止義務については、買い手としても当たり前かのように何も議論されずにM&Aの交渉が行われるケースも多く、金額などの条件と比べると、重要視されない傾向にあります。

売り手も競業するつもりなど一切なくても、買い手にとってはリスクと認識されることはよくあります。

度重なる交渉の結果、金額等の条件で合意できたとしても、いざ株式譲渡契約を締結しようとする際に、このような条文が含まれていることで、問題になってしまうこともありえます。

まとめ

繰り返しになりますが、交渉をスムーズに進めるためには、退任後のことを踏まえて事前に検討しておくことが重要です。

M&Aの手続きでは、こういった金額面以外についても売り手・買い手双方の考え方が異なり、論点になることも多々あります。

疑問に感じること、判断に迷われる場合は、私共のような、専門家にアドバイスを求めることをお勧めします。

 

M&A・MBOサポート

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 坂井 啓宏
1999年 滋賀大学卒。中堅中小企業の業績管理制度構築や事業計画策定等のコンサルティング業務に従事。中小企業再生ファンドの運営にも携わる。現在は、デューデリジェンスや計画策定等の企業再生支援、株式公開支援、買収監査や企業価値評価等のM&A支援を中心にプロジェクトマネージャーとして活躍中。
坂井啓宏の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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