2021年3月17日の日経新聞に
『節税保険「抜け道」ふさぐ経営者向け 国税庁が追加対応へ』
という記事が掲載されました。
内容は、2019年に見直しをしたにもかかわらず、解約返戻金を低く抑える保険での節税が広がっており、国税庁は6月末にも課税手法を追加で見直す方向で調整に入った、というものです。
この見直しは「低解約返戻金型生命保険」による、いわゆる「名義変更プラン」を対象としているようですが、この「名義変更プラン」とはそもそもどのようなものなのでしょうか。
なぜ名義変更プランが節税になるの?
「名義変更プラン」は、基本的には次のような流れとなります。
2.数年後にこの保険契約を会社から役員・従業員に名義変更して移します。
3.その後、役員・従業員はこの保険を解約して解約返戻金を受け取ります。
どうしてこれが節税になるのか、と言いますと…
▼まず、この保険の特徴として、契約当初の一定期間は解約返戻金が低く抑えられているのですが、その後、解約返戻金が大きくなるように設計されています。
▼当初、会社がこの保険に加入するのですが、解約返戻金が低いうちに退職金や給与(賞与、事前確定給与)として、この保険を役員・従業員に名義変更して移します。役員・従業員が会社からこの保険を買い取る場合もあります。
▼税務上、この保険の価値は解約返戻金で評価することになっていますので、退職金や給与、買取り金額は会社が実際に支払った保険料に比べて極端に低い金額になります。
▼役員・従業員は、解約返戻金が大きくなった時にこの保険を解約しますので、多額のキャッシュを受け取ることができます。
▼解約返戻金には税金がかかりますが、一時所得になりますので、特別控除として50万円を引いた後の金額の1/2に税金がかかることになり、税負担を抑えることができます。
具体的な数字で考えてみましょう
具体的な金額をイメージしてみましょう。
例えば、次のような前提であったとします。
・解約返戻金については、名義変更時は200万円ですが、
翌年にはピークを迎えて2,500万円になります。
・会社から解約返戻金相当の200万円で、役員・従業員がこの保険を買い取ります。
・年間保険料は500万円です。
買い取りの翌年に解約するため1年分の500万円は役員・従業員が自身で負担します。
・税率は50%とします。
解約の際の税金は、次のような計算となり、438万円です。
×1/2×税率50%=438万円
この結果、
・入金は解約返戻金2,500万円
・出金は買取り金額200万円
・保険料500万円
・税金438万円
となりますので、1,362万円の儲けとなります。
過去に加入した保険も見直しの対象へ
4月28日に今回の見直しについてパブリック・コメントが開始されました。
このパブリック・コメントによりますと、解約返戻金が会社の資産計上額の70%未満の場合には、解約返戻金ではなく資産計上額で評価することになるため、先のメリットはかなり抑えられることになると思います。
また、この取り扱いは2019年7月8日以後に締結した契約のうち、2021年7月1日以後に名義変更を行った場合に適用することになるようです。
過去に加入した保険も今回の見直しの対象にしており、名義変更をするタイミング、つまり解約返戻金が低く抑えられている期間も保険設計の段階で既に決まっていることから、今から何か対応策を講じることは難しいと思いますが、見直しに関する今後の情報に着目しながら、加入されている保険の内容を今一度、確認する、或いは保険会社へ問い合わせる必要があると思います。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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