新型コロナで急増するテレワーク
新型コロナウイルスの影響でテレワークの実施率が大幅に上昇しており、2021年3月に国土交通省が発表したデータによると、2020年のテレワーク実施者は2019年の9.8%から19.7%へと倍増しています。
テレワークの導入は、新型コロナウイルスの発生前から、多くの中小企業において、出産や育児、介護などを理由とする優秀な社員の離職防止や通勤時間の削減等を目的とした働き方改革の一環として、検討および一部実施されていました。
テレワークの導入が進まなかった大きな理由のひとつとして、「勤務時間の承認」をあげることができます。
例えば、現在、入退社時のタイムレコーダーの打刻情報で勤務時間の把握をし、その情報と業務日報との突合により日次での勤務時間承認を行っていたとします。
その場合、現在の承認基礎資料であるタイムレコーダーへの打刻資料の使用が出来なくなり、結果的に、本人の業務日報による自己申請勤務時間を承認せざるをえません。
この承認行為をより正当なものとするため、
「時間ではなく成果で仕事を測定できる業務」
「信用できる(申請承認時間の信頼性が高い)社員」
に限定したテレワークを実施している企業がほとんどでした。
現在のテレワークの普及は、新型コロナウイルスの影響が大きく、緊急的に導入した企業がほとんどであり、リモートワークによる制約から既存の業務プロセスを変更せざるを得ない状況になっています。
これらの変更は、前述の勤務時間の承認行為においては、タイムレコーダーの打刻情報と業務日報との照合作業の省略等、効率性を向上させている面もありますが、承認行為等の内部統制レベルを犠牲にすることで業務処理誤りや不正を引き起こすことも考えられます。
また、効率的になった反面、承認行為の有効性が困難となった業務として、支払業務をあげることができます。
ますます進む電子化への流れ
例えば、以前の企業の多額の支払業務は、決済専用の口座である当座預金から、小切手・手形の振出を通じて行われておりました。
この支払承認行為は、小切手・手形には、あらかじめ金融機関に届け出た銀行取引印の押印が必要となります。
多くの中小企業において銀行取引印は、社長または社長が信頼する経理責任者しかあけることが出来ない金庫に厳重保管され、押印も社長または経理責任者が行っています。
経理責任者はあくまで社長が行うべき代理行為を行っているにすぎないため、実質、社長の承認行為に基づいた支払が行われている状況でした。
これに対し、現在の支払業務は、小切手・手形という紙媒体を通さない、インターネットバンキングでの電子取引が主流となっています。
インターネットバンキングでの支払内容の承認は、従前どおり、経理責任者、社長が行いますが、実際、インターネットバンキングの操作を通じて、支払手続を実行するのは、ほとんど経理担当者です。
支払業務の最も重要な送金手続においては、その正確性は経理担当者に依拠せざるを得ず、業務処理誤りや不正を引き起こす可能性は残ることとなります。
また、小切手・手形については、全国銀行協会が2026年度をめどに紙の利用を廃止し、全面的な電子化を目指す方針を決定しており、紙媒体を通じての承認行為が困難なペーパーレス化がますます進むことが推察できます。
内部統制の機能強化を行う手続とは?
昨今の企業を取り巻く環境は、新型コロナウイルスの影響は現時点でも大きな影響を受けており、緊急的に始めたテレワークは多くの企業が恒常的なテレワーク制度に切り替えています。
これらの環境変化により、すべての従業員が守るべきルールや仕組みである現状の内部統制が以前のように厳格に機能せず、業務処理誤りや不正の「危険信号」を見逃しがちになります。
今後、環境変化による内部統制の機能強化を行う手続は、以下の通りです。
業務処理誤りや不正のリスクは無視することの出来ない重要な経営課題であり、リスク管理を適切に行うことが、企業に求められています。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 錦見 直樹
- 1987年 富山大学卒。月次決算制度を中心とした業績管理制度の構築や経理に関する業務改善指導を中心としたコンサルティング業務に従事。グループ7社を有す中小企業の経理・経営企画部門出向中に培った豊富な経理実務経験を武器に、経営者、経理責任者の参謀役として活躍中。
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