西浦道明のメルマガ 2013年7月
今回は、構造不況業界にありながら、長期に渡り安定的に高収益を計上しているO社について考えたい。
そのO社が属する金型業界は、かつては日本に12,000社あったが、今では6,000社ほどにまで減少し、更に減って行くと言われている。
では、一般の金型メーカーとO社の経営では、どこに大きな違いがあったのだろうか。
元来、金型は、自動車業界にしろ、電気・電子業界にしろ、そうした企業の「内製品」であった。
ところが、新製品開発競争時代に、社内金型製作が間に合わないということから「金型外注」が必要となり、金型メーカーが生まれた。
厳しい見方をすれば、産業界のバッファーとして生まれたとも言える。
しかし好調時には、1しか供給できないにも拘らず、2の需要が続き、金型業界は高収益に潤い、わが世の春を謳歌することができた。
一方、O社のU社長は、その慧眼により金型業界の実態を見抜いていた。
金型をキーテクノロジーとはするものの、利益構造は、その金型を使ったプレス加工の量産で行くと、当初から心に決めていた。
金型は、所詮「一品もの」であり、好不況で注文が変動してしまう。
「長期に安定した収益基盤」を築くには、やはり、金型を活用した「量産品」を生産し、それによって収益を安定化させるしかない、と判断したからだ。
U社長には、こうした経営の本質とも言うべき、「財務発想」と、それを実現する「実行力」が備わっていた。
またU社長には、下請けでなく、お客様企業とイコールパートナーにならないと、厳しい価格交渉の結果、こちらの「適正価格」が通らないという、同じく「財務発想」があった。
そこで、U社長は、あえて難易度が高く、競争相手が少ない、超精密機器の分野に進出を図った。
自社が、お客様企業を支える「サポート企業」として栄えるには、人財投資によって、技術をしっかり社内に蓄積することにより、その技術力を求めて行列をつくってくれる、「行列のできるラーメン屋」、ならぬ、「行列のできる金型屋」にならなければならない、と考えたのだ。
今では、O社は、ハードディスク分野でナノレベルの精度の、日本で2社、世界で4社にしかできない技術力を築き上げ、この分野で世界シェア40%、日本シェア70%以上になった。
O社の「適正価格」をお客様企業に通す力が備わった結果と言ってもいいだろう。
高収益企業づくりの秘訣は、業界選択にあるのではなく、長期安定収益を維持するために、どのような「財務発想」を持てばいいのか、そして、それに基づいて、どのような「競争力」と「社員力」を形成すればいいのか、さらには、「ここまでやるか!」と驚嘆するくらいまでの実行力を発揮する、ということではないだろうか。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。