社員に「価値ある会社」づくりへの挑戦 -N社長

経営

西浦道明のメルマガ 2013年8月

「挨拶さえしない社員がいる」とか、「社員たちはみな受身で提案や意見が全くない」などという、組織風土問題に悩む経営者・後継者は多い。

一方で、N社のN社長は、徹底した理念経営で社員たちの信頼をわしづかみにし、社員たちの考え方と行動を180度変えることに成功した。

その結果、社員満足度98%を達成するまでになっている。

今回は、N社長がたどった、理念経営のプロセスに学びたい。

後継予定の従兄弟が急逝したため、急遽、東京から戻ったN社長を出迎えたのは、挨拶なし、掃除なし、工場の床には製品が落ちているといった、恐ろしくやる気のない組織風土のN社であった。

「これは問題だ」と言ってみたが、周りは現状に浸かりきっており、誰もN社長の問題意識に取り合わなかった。

しかし、あるとき、N社長は、幹部社員の某課長が、「おはよう!」と、部下に明るく挨拶したにもかかわらず、当の部下は「おう…」とだけ小声で応えた現場を目撃した。

この瞬間、N社長には「何が何でも改革しなければ!」と、改革に向けてのスイッチが入った。

入社8年目を迎えた、常務となったN社長がまず創ったものは、「社員の幸せが経営者の幸せ」「会社の存在理由の第一は社員」との意味を込めた経営理念であった。

入社12年目、社長になって2年目には、創業者の思いをまとめた「創業の精神」を制定した。

経営理念と言うと、「綺麗ごと」と感ずる経営者も多いが、「経営者が社員に綺麗ごとを言っても仕方がない」という意識レベルでは、経営者の、社員に対する感謝の気持ちなど、伝わるはずがない。

まして、社員たちの心をつかむことなど、到底無理である。

理念を制定した後、N社長は、率先垂範して経営改革に乗り出した。

まずは、N社長自らが先頭に立ち、社内はもちろん、会社の周りの掃除を始めた。

今現在、全社員が毎日1時間、業務時間内にこのお掃除を担当している。

また、朝早く起き、N社長自ら社員一人ひとり対して、メッセージを書いた。
やがて、これに対する意見を、社員が書くようになった。

ついにこれが慣習化し、社員同士のメッセージ交換となり、毎日4~50分かけて4人一組で行う、朝礼となった。

もちろん、この朝礼は業務時間内に行われる。

さらに、社員一人に対して月に1回、1時間、社長自らが講師となり、勉強会を始めた。

工場ごとに。4箇所に分け、月4回実施している。
これも、業務時間内とした。

そして、ありがとうカードの交換を始めた。

部署ごとに、社員の誕生日を祝うパーティも実施するようになった。

また、経営ビジョンを制定すべく、将来のリーダー候補者からなるビジョン創生委員会を立ち上げた。

年に1回、1泊2日で3年ビジョンを創った。

翌年度の経営方針に関しては、全管理職を集め、やはり年に1回、1泊2日で、「来期方針」と「方針展開書」づくりを実施している。

さらに、この方針をベースに、社員一人ひとりが、自分自身の「ミッション・ステートメント」に心を込めているのだ。

N社長から学ぶべきは、改革の方法論ではない。

経営者が、自分自身にスイッチを入れ、先頭に立って、経営改革に乗り出した、その当事者意識の高さと行動力である。

本気で組織風土改革をするには、まずは「綺麗ごと」をしっかり謳い、あとはやり切るしかない。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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