西浦道明のメルマガ 2014年11月
本年9月から、中小企業は、業界の非常識に挑戦し、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、自らがその池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」になることで、高収益を生み出せるという考え方をお話している。
第3回目となる今回は、事例企業として、超精密金型の開発・設計・製作およびプレス加工を行う、株式会社サイベックコーポレーション(以下、S社)を取り上げたい。
S社は、長野県塩尻市に本社と工場を構える社員76名の研究開発型企業。
代表取締役社長の平林巧造氏(以下、H氏)は35歳の2代目社長である。
父が経営するこの会社に24歳で入社し、29歳という若さで社長に就任した。
S社の強みは超高精度のプレス加工だが、とりわけ自社で開発した「冷間鍛造順送プレス工法(CFP工法)」が最大の強みだ。
この工法は、従来、プレス加工では困難とされた極めて複雑な形状の部品を加工できるようにした、知る人ぞ知る、革新的な技術である。
S社がこの技術を開発するまで、自動車部品メーカー等は、複雑な形状の部品を加工するためには、多くの時間がかかる上、極めて高コストな機械加工に頼るしかなかった。
ところが、S社が「CFP工法」を開発したことで、機械加工と同精度の加工がプレス加工で可能になったのだ。
H氏の父である平林健吾氏(以下、K氏)は、人生のスタート時点で、高精度な加工技術であった機械加工と出会い、その後、従来からあるプレス加工と出会う。
そのとき、機械加工とは比較にならないプレス加工のスピードに感動したことが、K氏をCFP工法の開発へと導いた。
優れた感性を持った技術者の感動が、それまでの世の中になかった技術を生み出したのだ。
CFP工法により、機械加工と同精度の加工が可能になったが、S社は、その加工対象のサイズを、超精密加工を確実に実現できる「手のひらサイズ」に絞っている。
加工物がこれより大きくなると、加工プロセスにおいて力を加えた際に歪みが生じ、求める精度が出ない可能性があるからだ。
また、CFP工法には、金型の作り方にもっとも重要なノウハウが詰まっているため、S社は金型を売ることはせず、先方の仕様通りに加工物を製作し、納品するビジネスを展開している。
ノウハウの詰まった金型を社外に流出することなく、将来に渡って収益を安定させることができるからである。
S社は、「手のひらサイズ」の加工物に対象を絞り、それまで機械加工によってしか実現できなかった高精度な加工を、CFP工法で驚く程の安さで実現できるという提案を、自動車部品メーカー等に行なう。
顧客は「本当に、こんなに安い価格で作れるのか」と驚きながら、一旦理解すれば直ちに発注する。
なぜなら、品質を維持しながら大幅なコストダウンが可能であり、非常にメリットが大きいからだ。
これこそ、S社の「池(市場)」だ。
これは、S社が戦略的に開発した市場で、市場シェアは、ほぼ100%を占める。
金型製作技術の社外流出を防いでいる上、工作機械メーカーとの提携関係も強いため、他社が参入しづらい状況も保持している。
S社は、疑いようもなく「池のクジラ」だ。
売上高経常利益率20~25%という抜群の収益力は当然である。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。