西浦道明のメルマガ 2015年2月
昨年9月から、中小企業は、自社独自の「池」を見つけ出し、自らがその「池のクジラ」になることで高収益を生み出せるという考え方をご紹介している。
今回は、家電業界で量販店が熾烈な安売り競争をする中、「高く売っても、お客様が喜んでお金を払ってくれる」という、業界では非常識なやり方で成功した、でんかのヤマグチ(以下、Y社)の「池のクジラ」を見ていきたい。
Y社は、1965年、山口社長(以下、Y社長)が23歳の時に東京都町田市で「街の電気屋さん」として創業した。
しかし1996~98年にかけ、町田に6店の家電量販店が参入し、Y社は立ちどころに危機的状況に陥った。
3年近く眠れぬ夜を過ごしたY社長は、唯一生き残ることができる道として、町田市周辺地域の高齢者向けの「御用聞きサービス」の実施を決意した。
お客様を、家電の「買い物弱者」とされる地域のお年寄りに絞り、お客様の数を従来の3分の1である1万1000世帯に削減した。
Y社長は、98年から10年間、毎年、粗利益率を1%ずつ上げ、25%から35%にまで高めることを決めた。
その上で、お客様に向けて、「本当に困ったときに気軽に頼める」存在になる「御用聞きサービス」を始めた。
お客様の留守中に、新聞や手紙を預ったり、花の水やりをしたり、家に社員が泊まってあげたりした。
あるときは、雨戸の建付けや家具の配置変え、家具の修理、さらに入院中に飼い犬の世話をするなど、まさに、「向こう三軒両隣」の助け合いを社員たちが行なっている。
その結果、予定よりも3年早い7年間で粗利益率を35%に引き上げることに成功し、驚いたことに、「高いものほどY社で買う」というお客様が増えたのだ。
Y社長は「量販店の進出がなければ、粗利を上げる方針に転換できず、潰れていたかもしれない。量販店が進出してくれたお陰で高売りを始めることができた」と語っている。
Y社のお客様は「他店より高くても、Y社は困ったときにすぐにトンデきてくれる。だからY社でお世話になりたい」と、なぜY社を支持しているかを教えてくれる。
一般に、縮小し続ける国内市場で生き残りをかけて戦う道は、他社から顧客を奪取するか、新事業に参入するか、海外市場へ進出するかしかないと考えがちだ。
そうではなく、既存顧客へのきめ細かいサービスと、日常の綿密なコミュニケーションから、既存顧客が持つ「潜在ニーズ」を掘り起こせば、自社商品を買い続けてもらう道があると、Y社は教えてくれているのではないだろうか。
Y社の「池」とは、
(1)地域を町田地区に限定、
(2)「買い物弱者」の高齢者層に集中、
(3)低価格にこだわらない顧客が対象、
(4)顧客数を3分の1に削減、
(5)きめ細かな「御用聞きサービス」の徹底
という5つの非常識を重ね合わせた市場である。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。