西浦道明のメルマガ 2015年12月
昨年来、当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載16回目の今回は、BUTTERFLY(バタフライ)で知られる、世界有数の卓球用品総合メーカー、株式会社タマス(以下、T社)の「池クジラ」ぶりを見ていきたい。
日本に卓球が伝来したのは諸説あるが、1902(明治35)年と言わる。
卓球というスポーツは、野球の1871(明治4)年やサッカーの1873(明治6)年と比べると、30年ほど遅れて輸入された。
2013(平成25)年現在、公益財団法人日本卓球協会(JTTA)に登録している競技者は約32万人おり、この35年間で約6倍になった。
世界的に競技人口が多く、国内でもポピュラーだが、サッカーの96万人やそれを上回る野球と比べれば、日本では相対的にマイナーである。
T社の創業は、戦後の1946(昭和21)年。
当時、日本にあった卓球用具メーカー(主にラケットやラバー製造)は、現「日本卓球株式会社(ニッタク)」のみで、競合も市場もほとんどない状況であった。
卓球の全日本チャンピオンであった田枡彦介が、「自分が使いたい用具がなかなかなかった」ため「だったら自分で作ろう」と創業したのが始まりである。
以来、卓球用具という小さな井戸を掘り続け、その専業メーカーに徹してきている。
今では国内のみならず、世界100か国以上へ商品を輸出し、売上50億円のうち海外売上が40%を占めるまでになった。
T社の商品(ラケットラバー)は、2015年に開催された世界卓球選手権に参加したトップ選手の58.8%が使用している。
これは、当社商品の価値の高さを証明している。
すなわち、T社は、「世界のトップ選手が使いたくなる卓球用具」という「池」の巨大な「クジラ」になった。
T社が「池のクジラ」になれた理由の一つ目は、社員の約7割が元卓球選手であり、競技者が抱える「不」が分かるため、それを解消する新商品を開発し、数百人の現役選手に無償提供し、モニターとして意見を貰い、彼らの意見を新商品開発に反映させていることだ。
理由の二つ目は、産学共同によって、最先端の新素材の開発に取り組んでいることだ。
さらに、三つ目の理由は、市場が拡大するのをただ待つのではなく、競技人口の裾野を広げることに積極的に投資していることである。
「バタフライ道場」「レディース教室」「らくご卓球クラブ」などがその主な取り組みである。
ちなみに有名な福原愛選手も、幼い頃から「らくご卓球クラブ」のメンバーである。
T社は、競合がいない池をいち早く見つけて自社のポジションを確保し、競技者が使いたくなる商品を創るため元選手を経営資源(社員の70%)として抱え、マーケット・インの商品開発を行ってきた。
さらには、自ら競技人口を増やすという顧客の創造(市場育成)をやり続けてきている。
T社の「池クジラ」の築き方は、実に見事なお手本ではないだろうか。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。