西浦道明のメルマガ 2016年1月
2014年から、当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載17回目の今回は、日本一の茶産地静岡県にあり、とりわけ「茶そば」にこだわりをもつ麺類の製造・卸、池島フーズ株式会社(以下、I社)の池クジラぶりを見ていきたい。
「麺類」を大別すると、「生麺」「乾麺」「即席麺」「マカロニ類」に分類される。
それぞれの市場は成熟化しており、製品の多様化・高付加価値化の競争が激化していることから、商品開発力が優劣を決する。
企業規模との相関を見ると、市場規模の大きい「即席麺」、「マカロニ類」が大手のナショナルブランドで占められている。
また、「生麺」や「乾麺」は地域の名産・伝統商品として比較的小規模な事業者が生産し、「麺類」市場は完全に2極化している。
I社は1877年創業で、140余年という歴史の老舗企業である。
創業当時は米穀の販売を行なっており、戦後の食糧難時代にそうめん・冷麦等の麺製造を始めた。
現在は乾麺が100%であり、プロの調理人たちから支持される茶そばは、有名ホテルや機内食、高級旅館、割烹・料亭などで使用され、その市場シェアは50%を超える。
販売先は国内のみならず、海外20ヶ国以上に輸出している。
I社は、「乾麺」市場の「一流の調理人に認められる茶そば」という小さな領域(池)において、圧倒的トップ企業(クジラ)なのだ。
I社の麺作りは決して順風満帆ではなく、5代目の現池島会長(以下、I氏)は、2度も大きな方向転換に追い込まれた。
1度目は1961年当時、売上の80%を占めていた即席麺製造から撤退、そして2度目は1980年のゆで麺製造からの撤退である。
いずれも、後に大手企業が参入してきて価格競争に巻き込まれたからである。
その経験が、「大手とは戦わない、価格競争はしない、他と同じものは作らない」という明確な意思決定をI氏にさせた。
その反省から目を付けたのが、国内有数のお茶どころである静岡県産の抹茶を使ったブランド力が生かせる茶そばであった。
I氏は「川の右岸では価格競争という熾烈な争いをしていたが、目を左岸に向けると、競争相手のいない茶そばがあった」と語る。
茶そばのメーカーは数社しかなく、市場規模は小さいものの顧客となる料亭やホテルの調理人は価格より品質を重視してくれていた。
そこは、まさにI社が求めていた「敵のいない小さな市場」であった。
I社が生み出す価値は、商品を茶そばに絞り込み、またそのターゲットを料亭やホテルの一流調理人と決め、全国の調理人たちと年間150回ほど会合を持って、調理人の要望・感想や意見を直接聴き、彼らが満足できる商品開発に徹底して取り組むことで生まれた。
I氏は、品質の高さに徹底的にこだわっている。
生地の段階での熟成に一般的には30分~1時間のところを、I社では6時間掛けて熟成させる。
またその生地から作られた麺も通常は5時間ほどで熱風乾燥させるところ、丸二日かけて自然乾燥させ抹茶の風味を逃がさない。
さらに完成した麺はすぐには出荷せず、温度調整された倉庫で約1ヶ月寝かせる。
そうすることで一層の熟成が進み、麺にコシが出るようになる。
手間隙をかけ、「手打ち」と同等の美味しさを乾麺でも出しているのだ。
I社が世の中に提供している価値は、競合がいない市場に位置取りしたことと、一流の調理人の要望を徹底的に反映して商品を開発したことによって生まれた。
業界の競合と戦うことなく、ダントツの価値を社会に生み出したことで、I社は「池のクジラ」になっている。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。