提案型印刷業 -水上印刷株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2017年2月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載30回目の今回は、東京都新宿区で印刷を中心に総合グラフィックスサービスを提供する水上印刷株式会社(以下、M社)の池クジラぶりを見ていきたい。

M社は1946年、活版印刷を主業務として創業したのが始まりである。

先代の水上光啓氏(以下、M氏)は、1988年社長に就任したが、「単なる『印刷』会社ではなく『プロダクト&サービス』でお客様のあらゆる業務課題を解決する」というビジョンを掲げ、現在の「フルサービス提供」の基礎となる事業基盤を築いた。

まず取り組んだのがプロダクトによる差別化である。

印刷機械が高性能化した現在、印刷品での差別化は非常に難しいと言われているが、M社は国民の6割が保有するライセンスカード印刷を自社の技術力で開発し、一つの柱を作ってきた。

もう一つのプロダクトは全世界の複写機メーカーの複写機、プリンターの基準となるテストシートである。

作成を一手に引き受け、そのシェアは全世界で90%を超え、M社なくして複写機は出荷出来ない、と言えるほどの技術力により差別化を図ってきた。

次にM社が取り組んだのが「お客様の面倒くさい」を解決するフルサービスだ。

M社は新しいビジネスモデルを海外に求め、現在まで海外の印刷会社の視察は150社を超える。

その中で、数々のビジネスモデルと出会い、それらをいち早く取り込んできた。

M社の海外視察の特徴は、社長一人が視察に出かけるのではなく、いつも数名から10数名の社員を同行し、多くの目線で新しいビジネスモデルを確認し、共有し合うことだ。

この結果、新しいビジネスモデルを導入しようと意思決定すると一挙に取り組みが進むことになる。

多くの印刷会社では、印刷の前後となる制作・加工を突き詰めてきたが、それを飛び越えればマーケティング、クリエイティブ、システム、ロジスティックスなどに広がる。

M氏は、こうしたものをトータルでオペレーションし、「お客様にとって面倒くさい一連のプロセスをすべて引き受けることによる合理化」に、お客様への提供価値を発見した。

これは、競合相手のいる業界で「何でもできます」と言ってしまう器用貧乏なワンストップサービスとは一線を画している。

そこでM社のあり方を、「お客様の面倒くさいを解決する会社~フルサービス・カンパニー~」と再定義し、お客様の痒いところに手が届く提案型企業を目指すことにした。

この実現のためには、営業担当者が、お客様ごとに異なる、業務上の困りごとや課題を見つけてこられるかどうかが生命線である。

M社にそれができるのは、元々人づくり・教育体制のベースがあったところへ、良い人財が集まる環境にさらに整備し、自社での人づくりに集中特化しているからである。

M社は「日本一勉強する会社になろう」を合言葉に、M氏はじめ2年前に社長に就任した河合克也氏(以下、K氏)とともに全社員が「社員教育」に徹底的に取り組み、今では、所定内労働時間の10%に相当する年200時間を教育に費やしている。

その手法も単に外部研修等で学ばせているのではない。

M社では、お客様により良いサービスを提供するため、2016年に社内講師陣による社内教育システムというコンセプトのもと、講師と受講生双方向が学ぶ教育機関「MIC・ACADEMY」を社内に開校している。

選ばれた講師が教えるのは、印刷技術に関する講義も一部あるものの、その大半は、経営、ビジネス実務、人材開発、マーケティング、クリエイティブなど多岐にわたり、その講座数は130を超えている。

M社は、今では、印刷売上は5~6割に過ぎず、デザイン売上が1割、フルフィルメント売上が3割、売上高営業利益率10%以上にまで成長した。

そして、お客様の痒いところに手の届く、フルサービスを提供する提案型印刷業という市場(池)を創りあげ、その池クジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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