あえて特許をとらない -株式会社ふくや

経営

西浦道明のメルマガ 2017年3月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載31回目の今回は、福岡県福岡市で辛子明太子の製造販売を核に、各種食料品の卸・小売をする株式会社ふくや(以下、F社)の池クジラぶりを見ていきたい。

F社は、1948年、韓国の釜山から引き揚げた川原俊夫氏(以下、K氏)が福岡で創業し、翌1949年1月10日、日本で初めて、韓国風明太子の製造・販売を開始した。

ところが、翌日、購入したお客様から「辛すぎる」とクレームが入った。

韓国の辛子文化は、当時は、まだ日本人の口には合わなかったようだ。

その後、K氏は、すぐさま味を変えようと決断し、味の改革に取り組んだが、本当に納得できる味を完成させるまでには10年余りかかった。

1960年ごろになると、博多明太子の評判が口コミで広がり始め、地元よりむしろ、東京や大阪などからの出張者の間に人気が広がった。

そして、1975年3月に博多駅まで新幹線が延びると、福岡の名産として一気に全国に広まった。

こうなると、「自分のところに明太子を卸して欲しい」という声が上がる一方、「これだけ人気商品なのだから特許を取るべき」と助言してくれる方も現れた。

しかし、K氏は、「明太子は高級珍味ではなく、家庭の惣菜。その製法を独占すべきでない」との考えから、特許を申請しなかった。

また当時、冷凍技術が発達しておらず、卸で流通させると値段が高くなり、お客様に安くて新鮮な明太子を届けることができなくなるため、直接販売にこだわった。

その結果、K氏は、卸を依頼してきた業者に、次々とその製法を公開していった。

ただ、1つだけ公開しないものがあった。

それは明太子の「味」を決める調味液の配合である。
この配合を知っているのは、K氏の妻と息子と、まさに親子相伝である。

人間には好みがあり、いろいろな味があった方が、結果的に市場が拡大するとの考え方があったからである。

今現在、同業他社としのぎを削って競い合っているのは、まさにこの明太子の「味」である。

K氏が製法を公開したことにより、150社以上のメーカーが明太子の製造販売に参入することになった。

あるメーカーはデパートに、別のメーカーは量販店に出荷した。

こうして明太子市場は、全国規模に成長した。

現在の市場規模は1,300億円である。

業界No.1のシェアを誇るF社の売上高は149億円(2015年)であるから、製法公開による市場の広がりは凄まじい。

F社は、生で“たらこ”を食べる習慣がなかった日本で、明太子を食卓の定番の惣菜、お土産として定着させることに成功した。

製法を公開して明太子市場は巨大になったが、ふくや独自の個性的な味をこよなく愛するお客様たち(池)にとっては、「池クジラ」となっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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