お客様の需要を創造する -株式会社ふらここ

経営

西浦道明のメルマガ 2017年5月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載33回目の今回は、東京都中央区で雛人形・五月人形を中心とする日本人形の製造販売を行う株式会社ふらここ(以下、F社)の池クジラぶりを見ていきたい。

F社は、2008年、現社長の原英洋氏(以下、H氏)が45歳のときに創業した。

ちなみに、H氏の実家は祖父の代から始まる人形師の家系で、祖父は人間国宝の人形師原米洲、母は女流人形作家の原孝洲。

従来、日本人形の業界は、完全な製販分離で成り立ち、人形師ら職人の個別の作品を、人形専門店が組み合わせる形で自社ブランド化し、販売してきた。

H氏は、父親の急逝をきっかけに母親の会社に入ったが、店頭に立つうち、ものづくりの現場とお客様ニーズとの間の乖離に気づいた。

その旨を職人たちに伝えたが、「そこまでお客様に迎合する必要があるのですか」と聴き入れられなかった。

時代が変わり、若い母親たちが購入決定者の9割になったが、彼女たちの意見が商品に反映されることはなかった。

あるとき、娘の初節句に両親から雛人形を贈られた若夫婦から「飾りたくないものを贈られても困るので返品したい」という電話がかかってきた。

お客様からの声はこの1件だけではなく、同様の声が何件も寄せられた。

このやり取りを通じて、H氏は「お客様目線を持たず旧態依然と人形を製作していたのでは、やがて確実に限界が来る。雛人形の歴史は1000年と言われているが、時代の変遷とともに、人形の形は勿論、風習ですら変化して来たはず」 と、危機感を募らせた。

そして、「お客様が本当に求める人形を作りたい」との思いから、遂に独立を決意した。

H氏は、若い母親たちの声を反映した人形作りに挑戦した。

職人からの反発も大きかったが、一切妥協することがなかった。

更に、昔からの職人だけでは限界があったため、人形の購入決定権を持つ若い母親に近い年齢層の女性を社員として採用し、H氏に共感する若手職人と積極的に提携して、業界常識に縛られない彼ら、彼女らの意見を取り入れた商品づくりを行った。

その結果、人形を、従来とはまったく異なるお饅頭のような幼い顔つきにしたり、赤ちゃんの手足に似せたり、マンションに置けるコンパクトなサイズにしたり、明るいパステル調の色合いにしたりと、これまでの業界常識を打ち破る、若い母親たちが好む、かわいい人形を創りあげた。

F社が製作する人形は、すべて自社企画で手作り、あらゆるパーツがオリジナルという商品になった。

同時に、販売手法は、インターネット通販による、定価での予約が主体という製販一体のスタイルを確立させ、乖離していたものづくりの現場とお客様のニーズをつなぐことに成功した。

F社は、日本人形の業界にイノベーションを引き起こし、お客様から高い支持を受け、年々成長を続けている。

F社は、雛人形・五月人形という伝統産業の世界で、それまで誰も手掛けようとしなかった、お客様の需要創造型の人形企画・製造・ネット予約販売業という自社独自の市場(池)を創りあげ、その池クジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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