1年中出荷可能な 四季醸造システム -旭酒造株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2017年7月

014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載35回目の今回は、山口県岩国市で地酒、純米大吟醸「獺祭」の製造販売を行う旭酒造株式会社(以下、A社)の池クジラぶりを見ていきたい。

A社は1770年創業の酒蔵である。

日本酒業界では、清酒消費量が1975年をピークに一貫して右肩下がりで推移し、2014年には3分の1まで減少している。

現会長の桜井博志氏(以下、S氏)は、1976年A社に入社したが、縮小する業界に危機感を抱き、酒造りの方向性や経営をめぐって先代と対立し、退社した。

しかし、父の急逝を受け、1984年に家業に戻り社長に就任。

S氏は、「酔えばいい、売れればいい酒」ではなく、おいしい酒・楽しむ酒を造る酒蔵を志して、以下の2つに取り組んだ。

1つ目が、「獺祭」にブランドを統一し、原料を山田錦に限定した純米大吟醸酒のみを造るという商品特化。

2つ目が、製造方法の改革である。

まず1つ目の商品特化だが、S氏が戻った当時のA社は、岩国市内で売上4番目の、一級酒や二級酒を地元向けに造る小さな酒蔵だった。

当然、将来展望など描けるはずがなかった。

そこで、本当においしい、楽しむお酒に一点集中し、東京、そして世界に向けた新市場を開拓しようと、純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」を開発する決意をした。

ちなみに、純米大吟醸酒とは、吟醸酒のうち、白米、米麹、水だけが原料の、醸造アルコールを使用しない、且つ白米の精米歩合が50%以下のものをいう。

純米大吟醸酒への取り組みは、これまでと比べ高度な技術や設備を必要とし、大きなチャレンジだった。

酒造りで最も重要となる原材料の米は、最上級の特Aランクに指定された兵庫県の「山田錦」のみを使用した。

さらに「磨き」と呼ばれる精米工程を工夫し、いくつかの商品を作った。

精米歩合23%の「獺祭・磨き二割三分」。39%の「獺祭・磨き三割九分」。50%の「獺祭・純米大吟醸50」である。

磨く割合が多くなるほど、雑味のもとになるたんぱく質が減り、酒の味はよくなる。

「獺祭・磨き二割三分」は、2002年、モンド・セレクションで金賞を受賞した。

そして2つ目は製造方法の改革である。

通常の酒蔵では、杜氏を棟梁とする蔵人が冬場にのみ酒造りする。

かつてA社にも杜氏はいたが、若い人たちを年間通して安定雇用するため、夏場に忙しいビール事業に取り組んだところ失敗。

経営危機の噂が流れ、杜氏が離れていった。

レストラン併設型でなければ、地ビール事業の認可が下りず、不慣れな地ビールレストランの運営に乗り出したためだった。

ところが、S氏は、この逆境を逆手に取り、残った社員たちと1年中出荷可能な四季醸造システムを開発した。

徹底したマニュアル化・データ化を図り、酒造りの見える化を行った。

一般的な蔵元では、杜氏の権限が強く、蔵元は、酒造りに関して口を出すことが難しいが、杜氏を挟まなかった結果、蔵元の意思が製造現場に行き渡り、製造現場と経営者が直結し、企業の経営体質が強化されたのだ。

A社は、杜氏のいらない科学的製造法で、純米大吟醸酒を1年中出荷する四季醸造システムを確立し、お客様からの高い支持を受け、年々成長を続けている。

A社はこれまで世の中になかった、純米大吟醸酒というお酒を楽しむ市場(池)を創りあげ、その池クジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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