新しいトイレ習慣を創る -TOTO株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2017年9月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している企業をご紹介している。

連載37回目の今回は、福岡県北九州市で衛生陶器の製造を行い、国内シェアトップクラスの大企業にまで成長したTOTO株式会社(以下、T社)の池クジラぶりを見ていきたい。

1912年、日本陶器合名会社(現ノリタケカンパニーリミテド)の大倉和親社長は、海外の進んだ生活文化に触発され、下水道の概念さえ浸透していなかった時代に、「健康で文化的な生活を提供したい」という想いを胸に、製陶研究所を設立。

試作を繰り返し、2年後、国産初の「陶器製腰掛式水洗便器」を完成させた。

さらに「快適で衛生的な生活文化を普及させたい」と、1917年、東洋陶器株式会社(現T社)を設立した。

利益という影を追わず、「需要家の満足」「良品の供給」という実体に徹する考えは、創立当時からのものである。

現在、腰掛式水洗便器には温水洗浄便座をつけることが当たり前化してきており、T社の登録商標では「ウォシュレット」としている。

二代目の百木三郎社長は、「良き品物を作る前に良き人を作るのが理想」と言ったが、人財力に基づく製品開発に力を入れてオンリーワン技術を磨き、消費者の使いやすさを徹底的に研究した。

また「お尻は拭くものではなく、洗うもの」という新しいトイレ習慣を創造した。

今や、一般世帯における温水洗浄便座の普及率は81.2%、日本市場シェアはやはりトップクラスである。

 
当初、使いやすさの研究に当たり、まったくデータがない中で試行錯誤を繰り返した。

たとえば、お湯をお尻のどこに当てればいいかについて、社内で協力を求め、社員に針金をはった便座に座ってもらい、座ったときに肛門がきた位置に印をつけてもらい、男女あわせのべ300人以上分のデータを収集した。

さらにお尻に当てるお湯の温度も、実験室の中で、お湯の温度を0.1度ずつ上げてお尻に当てながらデータを収集した。

昨今では、目には見えない便器の汚れを分解・除菌する「きれい除菌水」の搭載など進化し続けている。

さらに、市場創造のためのマーケティングも、1982年9月、テレビCMで「おしりだって、洗ってほしい」というキャッチコピーを使い、大きな衝撃を視聴者に与えた。

これもウォシュレットを普及させる大きな要因となった。

さらにホテルやオフィスビルなど公共の場にウォシュレットを設置し、消費者に体験してもらう施策を打った。

ウォシュレットマップを作成し、どこに行けば、一人でも多くの人々に体験してもらえるかという取り組みも実施した。

一方T社は、海外にも積極展開している。年々増加する訪日外国人観光客などに、ウォシュレットの快適さを知ってもらうため、成田空港内に、最新機能を搭載したトイレを体感できる「ギャラリーTOTO」を設けた。

また、海外でも日本で普及を進めてきたのと同様、海外の富裕層が宿泊する高級ホテルや空港などに納入して体験してもらっている。

T社は、快適さ・環境配慮(省エネ)・衛生性にこだわった、毎日使う水まわり機器を提供し続け、特に温水洗浄便座「ウォシュレット」では
「お尻は拭くものではなく、洗うもの」という新しいトイレ習慣(池)を創り、そこで巨大な池クジラとなった。

そしてその池を、世界に拡げつつある。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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