日本一の知恵工場 -株式会社タニサケ

経営

西浦道明のメルマガ 2017年10月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載38回目の今回は、岐阜県揖斐郡池田町で、ゴキブリ殺虫剤等の製造販売を行う株式会社タニサケ(以下、T社)の池クジラぶりを見ていきたい。

1985年、現:代表取締役会長の松岡浩氏が、町の発明家の谷酒茂雄氏と株式会社谷酒生物公害研究所を設立したのが始まりである。

翌年の1986年には、「ゴキブリに困っている世界中の人たちを助けたい」という思いから、玉ネギの成分でゴキブリを引き寄せて駆除するという、今までにはないゴキブリ殺虫剤「ゴキブリキャップ」を開発した。

ゴキブリキャップは、ゴキブリの好きな匂いを含む玉ネギやピーナッツを誘引剤とし、ホウ酸を殺虫成分としたホウ酸だんごである。

ゴキブリは、ゴキブリキャップを食べると、ホウ酸の働きで脱水状態になり、水を求めて屋外へ出て死んでゆく仕組みになっている。

ホウ酸だんごの作り方はいたって簡単で、誘引剤にホウ酸を混ぜるだけ。

しかもT社は製法特許を公開していたことから、一般家庭でも作られていた。

類似商品がある上に、大手メーカーから安価なゴキブリ駆除剤がたくさん発売されているにもかかわらず、なぜT社のゴキブリキャップが支持されているのだろうか。

T社のゴキブリキャップの大きな特徴は、化学合成の農薬を含む殺虫剤と違い、ホウ酸に対してゴキブリは耐性を持つことができない。

そのため、毎年設置しても同じ効果が出る。

また1個が500円玉サイズで重さも約10gあり、誘引効果が長持ちする上、乾燥させているため、長く設置していてもカビや雑菌などの発生が抑えられるという点である。

こうした特徴を生み出しているのが、T社が「日本一の知恵工場」と自負する改善提案活動である。

その改善提案数は毎月200件以上、年間で2,400件以上と、1人当たりの報償金額では、カイゼン活動で知られるトヨタ自動車の数倍というから驚きだ。

しかも、その提案をしているのが35名の社員のうち管理職を除いた20名の社員からというから、さらに驚きだ。

T社が改善提案を始めたのは1991年。

そのきっかけは、社員の方に当事者意識を持ってもらうための取り組みからだった。

始めた数年は、会社への苦情ばかりが集まったという。

それでも、とにかくどんな小さな提案でも受け入れ、不採用の場合は理由をきちんと伝えた結果、年々、改善提案の内容が向上していった。

社員たちも、自分たちの提案が受け入れられれば会社側がすぐ実施してくれるため、それが嬉しくてやる気を高め、次々に提案をするようになったという。

T社は、ゴキブリをはじめとする害虫被害に悩んでいる多くの家庭に対し、これまで世の中になかった、「ゴキブリキャップ」という置き型タイプの殺虫剤を開発した。

さらに、社員を巻き込んだ提案活動により置き型タイプの害虫駆除市場(池)を改革し続け、その圧倒的なクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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