西浦道明のメルマガ 2018年12月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載52回目の今回は、京都府宇治市で、超短納期・多品種単品のアルミ切削加工から装置開発まで行う、HILLTOP株式会社(以下、H社)の池クジラぶりを見ていきたい。
H社は1961年創業、1980年に会社設立、2014年に現社名に変更した。
H社は、元々、自動車の量産部品を孫請けする鉄工所に過ぎなかった。
下請け仕事に疑問を感じていた山本昌作副社長(以下、Y氏)は、脱下請けを決め「油にまみれるのではなく、白衣を着て働く場所」「社員が誇りに思える夢の工場」を目指すことにした。
そこで、量産中心から、アルミ切削加工に特化した多品種少量・単品、超短納期の試作開発、そして装置開発に舵を切った。
Y氏は、量産もの・ルーティン作業はやらない、職人はつくらないと決めた。
また、すべては定量化できるはずと考えた。
即ち、職人の技術もノウハウもデータベース化し、ルーティン作業は機械に任せ、加工方法をデータベース化すれば、単品であってもリピート受注が効率化できるはずと考えたのだ。
その実現のために取り組んだのが、「人」・「本社」・「つくるもの」・「つくり方」・「取引先」の5つを変えることだった。
まず、「人」の面では、経験や勘に頼り、自分の技術を定量的・論理的に説明できない職人(にわか職人)を社内教育で徹底的に鍛え、その考えを変えた。
次に、中小企業こそ本社にお金をかけるべきという信念のもと、「本社」の面では、社員が誇りを持てる驚きの夢工場とした。
さらに、「つくるもの」の面では、多品種少量・単品に特化した。
現在、H社の受注全体の80%が製作数1~2個の多品種単品で、月3,000アイテムを受注生産している。
また、「つくり方」の面でも、就業時間の8割が機械の前、2割がデスク仕事という鉄工所にあって、H社では、昼間にデスクで人がプログラムをつくる一方、オリジナル生産システムで機械を24時間無人稼働させることに成功し、割合を2:8に逆転させた。
ちなみに、ある製品の一例ではあるが、同種のプログラムで800項目以上のデータ入力が必要なところ、H社では自社開発ソフトによりたった25項目の入力で済むようにした。
そのため、納期は、これまでの半分になっている。
これがH社の強みのヒルトップシステムである。
最後の「取引先」は、1社依存率を30%以下に定め、価格決定権を持ち、取引先を分散することで倒産リスクを軽減している。
この方針のもと毎年約100社の取引先が入れ替わるが、これを事業の新陳代謝と前向きに捉えている。
この新陳代謝が、新しいことへの挑戦の原動力でもある。
H社は、表面処理を含んだアルミ切削加工を、受注後、新規受注で5日、リピート受注で3日以内に納品するという超短納期の多品種・単品、試作品市場(池)を築いた。
そして、その池クジラとなり、国内だけでなく、ウォルト・ディズニー・カンパニー、NASA、ウーバー・テクノロジーズなど、世界トップ企業をも顧客にするまでになっている。
アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。