西浦道明のメルマガ 2019年1月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載53回目の今回は、広島県広島市で、ソース、酢、たれ、その他調味料の開発・ 製造・販売を行うオタフクソース株式会社(以下、O社)の池クジラぶりを見ていきたい。
O社は1922年、広島市横川町で創業。
1938年、醸造酢の製造を開始。
1945年の広島原爆投下で当社の本社や工場はもちろん、広島市内は全焼。
1950年、当時の日本で普及していたウスターソースを自社製品として開発・完成させ、「お多福ウスターソース」の販売を開始した。
ただ、ウスターソースメーカーとしては後発のため、競合商品も多く、なかなか取り扱ってもらえず苦戦が続いた。
そこで、直接、屋台や飲食店を訪問し、困りごとのヒアリングを重ねることにした。
そんな中、たまたま訪れたお好み焼き屋で、O社の方向性を決めるきっかけを得た。
当時はウスターソースが主流であり、お好み焼きにも当然ウスターソースがぬられていた。
店主曰く、「ウスターソースはサラサラの液体で、鉄板に流れ落ち、焦げて臭くなってしまう」と悩みを打ち明けた。
その後もお好み焼き屋を数軒回ったが、皆、同様の悩みを抱えていた。
このことをきっかけに試行錯誤を重ね、誕生したのが1952年に完成した「お好み焼用ソース」(現:お好みソース)だ。
お好み焼きに合うようにつくられたそのソース最大の特徴は「とろみ」である。
O社はこれまでのウスターソースにはなかった「粘度」を取り入れたのだ。
お好み焼きから流れ落ちにくく、具材ともよく絡み、お好み焼きと相性の良い、とろみのあるお好み焼き専用ソースを生み出した。
当初、ウスターソースが主流と言うこともあって「こんなドロドロのソースは気持ちが悪い」「本当においしいのか」などと言われたが、お好み焼きに合うとろみや、まろやかな味が受け、徐々に世の中に広まっていった。
O社は、ソースを拡販するため、いくつかの需要拡大施策を行った。
まずは、使ってもらう店舗を増やすために、お好み焼きの焼き方のコツから開業へ向けての流れや必要な資金等、お店のマネジメントまで指導する「開業サポート」を立ち上げた。
また、社員がお好み焼の知識や技術を習得するための社内資格「お好み焼士」制度を導入。
さらに、日本全国・世界へとお好み焼を広める部署「お好み焼課」を立ち上げ、また「Wood Egg お好み焼館」では、「お好み焼き教室」や、お好み焼きの歴史を学べる「おこのミュージアム」、お好み焼き店の開業を支援する「研修センター」を備え、需要開拓を行なっている。
O社は、ウスターソースが主流であった戦後のソース業界の中で、利用者の隠れたニーズ・ウォンツを聴き出し、これまでの常識にとらわれることなくそれを形にすることで、これまで世の中になかったお好み焼き専用ソースを完成させた。
その後も、開業サポート・需要開拓を続け、お好み焼きには「オタフクソース」という市場(池)を築き、その巨大なクジラとなっている。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。