多能工化した高学歴職人集団

経営

西浦道明のメルマガ 2019年2月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を維持・獲得している中堅中小企業をご紹介している。

連載54回目の今回は、静岡県沼津市で、建築工事全般、不動産業を行う株式会社平成建設(以下、H社)の池クジラぶりを見ていきたい。

H社は、1989年(平成元年)現代表取締役社長の秋元久雄氏(以下、A氏)が創業した。

A氏は1948年、大工の棟梁の家系に生まれた。

父親が「俺たちの仕事は達成感があるし、お客さんが喜んでくれる。
こんなに楽しい商売はない」と話していたのを子供心に覚えている。

ところが、高校生の頃、実家の工務店が倒産した。

大学進学を諦め、自衛隊体育学校に入学した。

中学時代、勉強のできるもやしっ子だったA氏は、劣等感を克服すべく、重量挙げでオリンピック出場を目指した。

残念ながらオリンピック出場の夢は叶わなかったが、一生懸命努力し、全日本選手権大会に出場した経験は、その後の人生で大きな自信になった。

卒業後、デベロッパーとハウスメーカーで営業マンとして働き出したA氏は、仕事を進める内、次第に建設業界に違和感を覚え始めた。

大工・職人が大切な施主のことを考えようとせず、A氏の父親世代が持っていた誇りを失っていたからだ。

さらに、大工・職人の減少に歯止めがかからなくなっていた。

一方で職人の仕事は絶対に工業化できない。

このいかんともしがたい事態から脱却するには、自分の手で一流の大工・職人を育てるしかないことに気づいた。

H社は、新卒大学生・大学院生を毎年募集し、高学歴大工集団を築き上げて行った。

「単に優れた技能があるだけでは大工とは呼べない。棟梁ともなれば、現場監督もこなす必要がある。さらに後輩に対する指導力も必要になる。棟梁になる前から後輩の面倒を見れない人物が、一人前の棟梁になれるはずがない」 と考えた。

少なくともA氏の祖父や父は、そんな棟梁だった。

そこで採用活動に全力投球し、「やり甲斐」や「大工の面白さ」を訴えた。

能力だけではなく、A氏と価値観が合う人物を厳選して採用した。

その結果、大工を目指す学生の間でH社の認知度は年を追うごとに高まり、大手就職情報会社が公表する「大学生の人気企業調査」では、大手ゼネコンと肩を並べて毎年ランクインする常連企業にまでなった。

次に、自社の社員に、営業、大工、施工、設計、デザイン、メンテナンスまで、すべての工種を経験させて多能工化し、一貫で行えるようにした。

こうして、現場への効率的な人員配置と工期の短縮が可能になった。

また、すべて内製化することで、施主と現場で話し合いながら、設計を臨機応変に変えることができるため、より大きな満足度を施主に提供している。

H社は、工程の内製化と多能工化に取り組んで高学歴職人集団を創り上げ、静岡・神奈川・東京で富裕層のお客様から依頼された注文住宅や賃貸マンションを一貫施工体制で建設。

工期短縮・臨機応変な設計で高い評価を得ている。

かくしてH社は、この市場(池)のクジラになった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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