西浦道明のメルマガ 2019年6月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載58回目の今回は、神奈川県横浜市港北区でITソリューション事業等を行う、アクロクエストテクノロジー株式会社(以下、A社)の池クジラぶりを見ていきたい。
A社は、1991年3月、現代表取締役の新免流氏(以下、S氏)が設立したのが始まりだ。
S氏は大学の工学部建築学科を卒業後、クリエイティブなものづくりをしたいとの思いからゼネコンに就職した。
しかし、そこで行われていたのは、S氏の理想とは程遠い、工程管理・価格管理が中心の仕事であっため、転職してITソフト開発会社に入り直した。
そこでの仕事は、S氏にとっては大いにやりがいがあった。
しかし、人材を派遣して派遣工賃を稼ごうとする会社の方針に納得がいかず、上司に「このままでは世の中の技術の流れに取り残される。派遣スタイルをやめませんか」と訴えた。
しかし上司は、S氏の提案に耳を傾けなかった。
それをきっかけにS氏は退社する。
一方、S氏の妻で、現A社取締役副社長の新免玲子氏も、勤務先の外資系金融会社で上司と意見が合わず、離職した経験があった。
夫婦2人は、自分たちが理想とする、社員が「働くことを楽しく思える会社」を創ろうとA社を設立した。
通信ネットワーク黎明期の設立当初から、コンピューターのプログラミング言語の1つでもある“Java”に特化した技術研究・開発に取り組んだ。
その結果、Javaトラブルシューティングの解決率が100%、また利用件数も圧倒的トップとなり、技術力は大いに高まった。
この技術力が一番活かされるのは、人の生死を分けるほど重要な、24時間365日、1秒たりとも止まることが許されない異常検知分野―具体的には、高速鉄道運行管理システム、電力供給監視システム、自治体防災管理システムなど、国のインフラにかかわるものだった。
A社は、設立当初から、なぜこんな高度な仕事ができたのだろうか。
その理由の1つ目は、技術の社内蓄積を進めてきたことにある。
業界常識では、利益を出しにくい受託開発より、毎月安定収入が見込める派遣スタイルの方が有り難い。
しかし、新入社員の内から高いレベルの技術を身につけさせたいというS氏の強い信念から、A社は、ほぼ100%、自社内受託開発方針を採用した。
2つ目は、提案型のシステム開発を行っていることである。
交通・電力・自治体といった大きなクライアントに、単に発注されたものをつくるに留まらず、メーカーと共同で研究開発段階からプロジェクトに参加し、システム開発の心臓部となるフレームワークを自社開発している。
また、社内での新技術開発も盛んで、自社開発製品によるクライアントの課題解決も行なっている。
A社は、自社に蓄積した技術と人財力によって、国のインフラに関わる重要な業務に取り組み、安心を提供することで高い評価を得ることに成功した。
A社の人財力は、社員全員の話し合いで、給与査定や社内ルールを決定する仕組みと、それで築かれた社風によるところが大きい。
A社は、社会インフラに対する異常検知ソリューション提供という市場(池)を築き、その巨大なクジラとなっている。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。