くず餅ひと筋、真っ直ぐに -株式会社船橋屋

経営

西浦道明のメルマガ 2019年11月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介しています。

連載63回目の今回は、東京都江東区で、くず餅・あんみつ等の製造販売を行なう株式会社船橋屋(以下、F社)の池クジラぶりを見ていきます。

F社は1805年(文化2年)創業。

以来「くず餅ひと筋、真っ直ぐに」の理念のもと、くず餅に特化。
まじめに、正直に、時代にあわせ柔軟に変化・進化してきました。

ちなみに、くず餅には関西風と関東風があり、両者は別物です。

関西風は、万葉集の時代から葛粉に水と砂糖を入れて作ってきました。

一方、関東風は、江戸後期、下総の国葛飾郡など良質な小麦の産地を後背地に、小麦粉からグルテンを分離させた澱粉質を乳酸菌で発酵させ、和菓子で唯一の発酵食品として生まれました。

ところで、F社が、関東風くず餅の老舗として200年を超えて成長発展してこれた一番の原因は、くず餅づくりの姿勢にあります。

「原材料」「水」「木」「無添加」「鮮度」「品質管理」という6つにこだわり、消費期限2日に対して、発酵熟成に450日間もの時間をかけてきました。

この「江戸の粋」を大切にする姿勢があってこそ、ここまで、本物のくず餅を提供し続けてこれたのです。

これら6つのこだわりの継続には、代々、不易の哲学が口伝えされてきたことも大きく作用しています。

「歴代当主とその時々の社員の汗の結晶が当社の今日をつくったのだから、謙虚な気持ちを忘れないでほしい」「今から後継者を誰にするか頭に留めなさい」「家族や当社を支えてくれている親戚、社員、取引先。とりわけ社員に対する気配りは忘れないこと」 という3つです。

さらに家訓も強く伝承されてきました。
「売るより作れ」「浮利を追うな」 です。

その結果、ものづくり第一で浮利を追わず、正直に商いをしてくることができました。

一方で、2008年8代目当主に就任した現社長の渡辺雅司氏は、300年企業を目指して、時代に変化適応させてきました。

当初は古参の職人たちから反発を受けることもありました。

やがて社長が若手を集め会社の存在理由を見つめ直し、くず餅に関わる人たちをすべて幸せにするというビジョンを示しました。

また、現場のリーダーを投票で選出し、彼らに現場を任せました。

この結果、理念に共感した社員たちが、自らの意思で動く「オーケストラ型組織」へと方向転換できたのです。

F社は、社員が当事者意識を持ち、創意工夫を積み重ねる、全員参加型経営の領域に到達しました。

F社が老舗の暖簾に胡座をかくことなく、近代的組織体制に挑戦してきた結果、2019年現在、売上20億円、社員数200名、店舗数26にまで成長することができました。

一方、代々受け継がれてきた「とりわけ社員に対する気配りは忘れないこと」という思いは、変わることなく受け継がれています。

この不易と変化適応の絶妙のバランスこそ、老舗の老舗たる由縁です。

F社は、創業以来くず餅に特化し、不易の哲学を守り通すと同時に、時代に合わせ柔軟に変化することで高い評価を得てきました。

F社は「本物のくず餅」という市場(池)のクジラとなり、「くず餅と言えば船橋屋」というブランドを築き上げています。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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